モーニング娘。’17の誇る天才の帰還〜なぜ佐藤優樹は天才か?〜

パシフィコ横浜国立大ホールは、入場口として使われるエントランスロビーをまっすぐ抜けると、マリンロビーと呼ばれる広い空間に至る。ここは横浜の海に臨むロビーで、出口として終演後に開かれるほか、マリンロビーのすぐ外の一角では、海を眺めつつ開演までの時間を過ごす人もいる。3月の中旬では吹き付ける海風も冷たく感じるが、心なしか、この一角で開演までの時間を過ごす人が多いように感じたのは、待ち侘びた春の陽気のせいだろう。しかしながら、モーニング娘。のファンは、それ以上に彼女のことを待ち侘びていた。

2017年3月18日、この会場にて行われたモーニング娘。’17コンサートツアー春 〜THE INSPIRATION!〜初日公演にて佐藤優樹は、椎間板ヘルニアから印象的なカムバックを遂げた。

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コンサートの概形をなぞると、貫禄を見せ始めた9期・10期・11期を軸として、変化から成熟へと軸足を移しつつあるグループを12期がしっかりと底上げし、加入間もない13期も成熟期にあるグループに新たな色を加えた。アップテンポな曲を休みなく放り込むセットリストは、加賀楓・横山玲奈の新人離れした実力と根性を前提に組まれていたのは明らかだった。

小田さくらと牧野真莉愛の2人のMCでは、加入当初からぐんぐん背が伸び、グループ内で最高身長となった牧野真莉愛に、「いつの間に、こんなに大きくなっちゃって!私なんて、横山ちゃんよりもちっちゃかったんだよ!」と小田さくら。「でもパフォーマンスのときは、大きく見えます。」とフォローされると、「貫禄かなっ?」と余裕の返し。身長だけでなく、あらゆる面で成長を感じさせる後輩と、貫禄を見せ始めた先輩。新たな局面を迎えた”BRAND NEW MORNING”の象徴的なシーンであった。

このMCを受け、あらためてステージを見てみる。はて、小田さくらは「横山ちゃん」よりも背が高い。足元に目をやると、それは靴の高さの違いによるものだった。すぐさま、初めての単独ツアーなので慎重を期して底の平らなシューズで、という演出の先生のアドバイスを素直に受け入れたのだろうと想像した。

研修生時代は先輩であったが、モーニング娘。加入により同期となった加賀楓に対し強気の発言をするなど、横山玲奈には、見てるこっちがヒヤッとするほど勝ち気なところもある反面、しっかりと素直なとこも持ち合わせているようで、「モーニング娘。のために実を取る選択もできる、そこが横山ちゃんの魅力だね。」とつぶやいたのは、筆者だけではあるまい。

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そして約3ヶ月のブランクを経ての佐藤優樹の帰還。このブランクこそが、佐藤優樹の天才たる所以を浮き彫りにした。

メンバーの入れ替わりのあるモーニング娘。のライブで、過去の楽曲を歌う時には、オリジナル音源の歌い回しを踏襲することが多い。筆者の知りうる限りでは、明言されたことは無いものの、オリジナル音源の踏襲は、暗黙の”作法”であり”型”であることが推察される。ところが佐藤優樹は、いともたやすく歌い回しを即席で変化させる。時には自らの声を収めた音源でさえ、歌い回しやニュアンスを変えて歌うことも少なくない。”型”からの逸脱が多いのだ。

そして佐藤優樹は、従来の”型”からの逸脱こそに説得力があり、それを期待されている。これこそが天才の資質に他ならない。佐藤優樹のテンションが乗れば乗るほど自由な表現が生まれ、それは彼女の歌がライブの臨場感と表裏一体の関係にあることを意味する。彼女のパフォーマンスを”型”に押し込んでしまっては、閉じ込められてしまいそうな不思議な魅力がある。それゆえ特別に、高い自由度を許される。ファンの不意をつくタイミングでガナリを入れたり、急に厚みを加えて野太い声を響かせたりと、予測不可能性はファンの熱気に直結する。”型”なんてものは、佐藤優樹不在のたった3ヶ月の間に、ファンが勝手にこう来るだろうと決め込み、予想して、作り上げていたものに過ぎないと気づかされる。

完全に目元を覆い隠す前髪は野生的。マイクをホールドする左手の中指と薬指を頻繁に、独特のリズムでパタパタと動かす仕草は、まさしく感覚派。天才・佐藤優樹がモーニング娘。’17に帰ってきた。

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「東の空 沈む太陽のように 沈めど起き上がる 不屈のBRAND NEW MORNING 」という新曲の歌詞は、天才の帰還を予言していたかようである。佐藤優樹の印象的な帰還によってモーニング娘。は、今年の9月に迎える結成20周年という節目に向けて、勢いを増す一方だ。

(敬称略)

(文=puke)

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