いつか武道館に立つことを夢見た3人の少女が生バンドをバックに奏でるハーモニーと、それに呼応するようにヒートアップする観客のエネルギーが交わり、うねり、黄金色に光るたまねぎを下から突き上げた。Buono! Festa2016は最高であった。この熱いライブで放出されたエネルギーは、1回分のライブのエネルギーとしては、武道館の限られた空間には到底収まりきらないのは鮮明であった。したがって、断言しよう。2016年8月25日に行われたこのライブは、熱帯夜の東京の空から見守っていてくれたロックの神様に届いたと。
嗣永桃子
最近はお昼のバラエティ番組に出ずっぱりのももち先輩だが、「本業はアイドルです」と高らかに宣言せんとばかりに、圧巻のパフォーマンス見せた。武道館に足を運ばなきゃ見ることのできないももちが、なんとも多彩で、かわいいこと。ヘヴィなリフに身をまかせる“ロックなももち”にほれぼれしたかと思えば、衣装替えを終えて歓声を浴びると「こうやってフーッ!て言ってくれることが私たちの元気の源だからさ」と、サラッとファン的にとっても嬉しいことを言ってくれるももちには、ついて行きたい気持ちを更新せざるを得ない。
でもね、筆者はこう思うんですよ。共にステージに立つ相手が夏焼雅と鈴木愛理とくれば、燃えないわけにはいかないだろうと。それも、“ももち先輩”ではなく、“ももち”として。そして、こんなにも魅力に溢れたももちが、ファンとしてついて行きたいと思わせるももちが、この真剣勝負をももち自身が楽しんでなきゃウソだなと。ひとつの遠慮もなく魅力を振りまき、歌にダンスにトークにと躍動するももち自身が真剣勝負を楽しむステージこそが、ファンにとっても最高であると。おかえりなさい、ももち。
夏焼雅
そして、当日バースデーを迎えたみやびちゃん。MCでは、Berryz工房活動停止後のブランクに加え、本格的な復帰初戦が武道館になったことを受けて、「マジか〜、ってなったんだけど」とぶっちゃけ、「2人にもフォローしてもらって」ライブを迎えたという。でもライブが始まってしまえばそんな不安は一顧だにされず、ブランクなど無かったかのようにステージで躍動する雅ちゃんの姿があった。
ファンとしては不思議な感覚であっただろう。なぜか、ライブの場数は踏んで無かったはずなのに、しっかりと歌声はパワーアップしている。以前にも増して、繊細なのに芯があり、目立つのに馴染む。新たにバンド・ドルチェに加わった同い年のメンバーを、“みやび世代”と紹介したライブ中盤には、「そりゃ西暦なんかよりもみやびちゃん基準で言ってくれた方がはるかにわかりやすいわ!」とみやびワールドに染まっていた日本武道館であった。そして、『Kiss! Kiss! Kiss!/Buono!』(セットリストはこちら)では、「♪(昼まで) 寝てればいい」と歌い、ベッドに眠ってしまう直前のたった6文字の中にも、ロックな雅ちゃんから、ほんの数秒間で切り替え、おねむの雅ちゃんのテイストを乗っけているところ、かつてのトップフォームを完全に取り戻していた模様。雅ちゃんファンの皆さん、こんな嬉しいことはないですね。私たちの知る雅ちゃんは完全に戻ってきていましたね!
ライブの一区切りつくタイミングで挿入される映像の「バースデー今月」も、なんか懐かしい感じで観てたら、Berryz工房のツアーの映像やDVDマガジンを思い出したりして。コミカルな雅ちゃんのほうを担っていた脳内回路を即座に組み直して、忘れてかけていた幸せを噛み締めたというファンも多かったはず。また、お茶目さと上品な美しさで語られることが多い雅ちゃんだが、個人的には、やんちゃで活発なイメージでお茶目な方として捉えていたブロンドヘアが、美しく上品なほうの印象にすっかり変わっていた。じゃあ、次に見つけるのはお茶目な雅ちゃんで、そしたらまたお上品な雅ちゃん・・・と、このようにして際限なく雅ちゃんの魅力に気づいてしまうのだろう。最後に、雅ちゃんハッピーバースデーの気持ちを込めて川柳を一句。
どこまでも 好きになれます みやびちゃん
鈴木愛理
「♪波乗りキングの テクニック」といえば、キライキライスキ/Buono!の楽曲ですね。波乗りキングの代名詞といえば、“チューブライド(=身長の何倍かはある大波がテッペンから次々と崩れ落ちる中にできる空間をくぐり抜けていく、サーフィンの大技といえば・・・的なアレ!)”燃えるような灼熱の武道館で鈴木愛理さんも、波乗りキング顔負けの立派な“チューブライド”をキメていた。
ところで、東京オリンピックにも採用されたサーフィンは採点により成績が決まる。チューブライドに評価に関する基準としては、1、チューブの形が綺麗で大きいこと。2、チューブのより奥深くまでもぐり、最終的には脱出すること。そのためには、3、波の崩れるタイミングと、チューブに潜った自分自身の位置・スピードを把握し、コントロールしていること、だという。
『ロッタラ ロッタラ』のBメロはチューブライド。「♪誰かが言った 幸せになるため生まれ」とテイクオフすると、大波のように降り注ぐ1万人の「あーいり!」コールは、、生バンドのオケもかき消されるほど。その中にあっても、いや、その波が大きければ大きいほど燃えると言わんばかりに、朗々たる歌声は一つのバランスも崩すことなく、大波の中から出てくる。ドヤ顔、正確に言えば、ドヤ声で歌い切る。Buono!の楽曲に特有の、Bメロから一気にギアを上げて、スルスルと心地よい疾走感を伴いつつも、力強くサビに雪崩れ込んで行く原動力は、間違いなく、鈴木愛理だ。
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アンコールに応えたBuono!がライブを締めくくったのは、あの時と同じ『タビダチの歌/Buono!』であった。
あんなにせつなかった、あんなに胸を締め付けた「タビダチの歌」だけど、3人とも今度は笑顔で歌っていた。あの日と違う表情で、あの日と同じ歌を、あの日と同じ3人で。
Buono!のくれる音楽体験はいつも、揃った仲間と「あわせる楽しさ」を再確認させてくれる。この日も勿論、「桃子が揃った、みやびが揃った、愛理が揃った、ドルチェが揃った!ウチらにしかできないライブを、さぁやってやろうぜ!」という意気込みが感じられた。音楽をするために仲間を揃えること、揃った仲間とあわせること。この2つは音楽体験の中でも基本的で、初歩的で、単純なことかもしれない。が、それらは常に更新され、新鮮であり続けると、Buono!は教えてくれた。ハロープロジェクトキッズとして初めて「あわせた」ときから14年、変化の中でセッションする楽しさ(=あわせる楽しさ)を、ステージを通して教えてくれた3人は、最高にロックではなかろうか。
℃-uteの解散が決まり、今度は見送られる側の立場として、旅立ちを迎える愛理さんも笑顔であった。PINK CRES.として本格的に再始動した雅ちゃんも笑顔であった。ももちも笑っていた。「来年もできるといいな(夏焼雅)」と、今後の活動に含みを持たせたBuono!の未来も明るいと、確信してもいいだろうか。
また今度、ロックの神様が 「あわせて」くれたら笑顔で「あわせ」よう、この3人で。
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