つばきファクトリーがデビューイベントの『シリアス寸劇』に託した健気な覚悟とは

2017年5月6日、横浜 Bay Hall にて、つばきファクトリーのメジャーデビューシングル発売記念のシリアルイベントが開催されました。シリアルイベントなんだけど、メンバーたちはブログで盛んに『シリアス』イベントであると申告していたイベントです。

シングル発売記念『シリアス』イベント in 横浜 Bay Hall

メジャーデビューシングル発売記念のシリアルイベントは、ミニライブにお見送りの握手会という構成。リリイベではなく、対象商品に封入された申し込みチケットのIDで申し込むシリイベなのに、追加で何か物販するわけでもなく、漏れなく握手会がついてくるのは相変わらず大サービスです。

このシリアルイベントが、メンバーたちによって『シリアス』イベントと呼ばれていたのは、ミニライブに10分少々の「シリアスな」寸劇が付け加えられていたから。
というわけで、3回まわしの公演の概要はこんな感じです。

第一回公演 第二回公演 第三回公演
『初恋サンライズ』の衣装 『Just Try!』の衣装 『うるわしのカメリア』の衣装
1.17才
–MC:連休の過ごし方は?–
2.独り占め
シリアス劇場:サンライズ
3.初恋サンライズ
4.うるわしのカメリア
5.Just Try!
1.17才
–MC:こどもの日–
2.青春まんまんなか!
シリアス劇場:Just Try
3.Just Try!
4.初恋サンライズ
5.うるわしのカメリア
1.17才
2.気高く咲き誇れ!
シリアス劇場:うるわしのカメリア
3.うるわしのカメリア
4.Just Try!
5.初恋サンライズ
お見送りの握手会 × 3

基本的には『17才』が固定で、インディーズ時代の3曲を差し込みつつ、メジャーデビューのトリプル3曲を(その内容を踏襲した寸劇に応じて順番を入れ替えて)メインで披露する、ものすごく正しいセトリです。

連休の過ごし方をお題にして、フェスがいっぱいあると言い出す希空ちゃん(もっぱら「食べ物系」のフェスに言及)だったり、こどもの日の話題で、小さい頃はそういった行事に参加したことがなかったという小片さんだったりと、MCにおいても、ちゃんと正しく個性を発揮していたメンバーたち。

ですが、何よりも今般のイベントにあって大事なことは、メジャーデビューのトリプル3曲のモチーフをプロットに取り込んだ『シリアス』な寸劇
というわけで、今回のレポは、このシリアスな寸劇の紹介を中心にさせてくださいな。

シリアス劇場:サンライズ/主演:山岸理子、岸本ゆめの、浅倉樹々

一回目の公演のシリアス劇場は『初恋サンライズ』の内容に即した(?)寸劇ということで、主演は、理子ちゃん、樹々ちゃん、きしもっちゃんです。
樹々ちゃんは女子高校生なのにプロデビューした漫画家役、理子ちゃんは担当編集者役、小野田、小野、谷本、秋山の4人は樹々ちゃんのアシスタント役。
女子高校生なのにプロデビューした樹々ちゃんは、次回作にも期待されていますが、なかなか次の作品を描くことができないでいて、理子ちゃん編集者に追い込まれ中です。アシスタントたちが「樹々ちゃんは、しっかり、ちゃんとやる子だ」と理子ちゃんに向って話してたりする合間に、新作のプレッシャーに押しつぶされそうになった樹々ちゃんは逃げ出してしまいます。当て所なく街をさ迷ううちに、不良に目をつけられて、あわやカツアゲされかける樹々ちゃんです。で、この不良役が小片さんと希空ちゃん。「お金もってないんです」という樹々ちゃんに、「じゃあ、そこで軽くジャンプしてみ」という希空ちゃんが本格的でけっこう恐かったのは特筆しつつ、その軽いジャンプが『初恋サンライズ』のサビのジャンプの形だったりと小ネタも挟みながら、そこに助けに現われるのが、樹々ちゃんと同じ高校生だけどあんまり学校には出てこないでボクシングに打ち込んでいる(不良達の頭目なのかどうかは不明)岸本さん。樹々ちゃんを不良な小片さんと希空ちゃんから救った岸本さんは、漫画家としてデビューできた樹々ちゃんを羨ましがって褒め称えます。
好きを仕事にできたことは、うらやましい」と。
それでも自分はそんなに大した者ではないし、普段は妄想ばっかりしてるダメな奴なのだと自虐な樹々ちゃんに、岸本さんがその妄想してる等身大の自分を描いたらどうかと提案して無事に新人漫画家さんの次回作が出来上がるという短い寸劇。

漫画家としてのデビューが、アイドルとしてのデビューに重ねられて、「好きを仕事にできたこと」をテーマに押し出していること、その上で「次のプレッシャー」を重く感じていることを描いていること、「洗いざらい さらけちゃって」とか「本当は…私のすべてを見せたいの」といった歌詞に託したプロットなど『初恋サンライズ』にちなんだ寸劇でした。

浅倉樹々ちゃん、プレッシャーに押しつぶされそうになっているところや自分の本当の魅力に自分で気付いていないようなところ、もちろん演技なんですけど、なんだか樹々ちゃんそのまんまなようで、魅入ってしまいます。ほんとです。
むちゃくちゃ可愛かったです。ほんとうです!
もっと本当のことを言うと、樹々ちゃんの妄想の内容を知りたいのが一番の本当ですけれども。

理子ちゃんの編集者、これが意外にも非常にピッタリで、樹々ちゃんに厳しいことを言うところも、次回作がうまく出来上がりそうで編集部に電話して「もう少し待って」と伝えるところも、まあるい可愛い小さい理子ちゃんだとばかり思っていたところに、大人で合理的でしっかりした理子ちゃんというように、上手に印象が上書きされて、どんどん魅力が積み増されている山岸理子ちゃんでした。

そして、何よりも「それらしかった」のが、岸本ゆめのさん。
いろいろと「モノのわかった」役柄として、岸本さんが介在することで混乱した事態が収束していく(そのように意図的に振る舞う役柄なんじゃなくて、あくまでその役柄が介在することで、客観的に、複数の流れが妙に整合的に収束していく)その様子は、イケメン岸本さんのまんまであろうかと。
もちろん、当の岸本ゆめのさん本人は、コミカルな展開でスベりまくっていたり、お母さんに毎朝起こしてもらっていたりと、必ずしもイケメンであるわけではないんですけど、何と言うか、当人の意識の上で設定されている「岸本ゆめの」像がイケメンであるという点で。

シリアス劇場:Just Try/主演:新沼希空、小野瑞歩、秋山眞緒

リハーサル終わりに全員が気絶してしまって、よくわからない謎の空間で目覚める つばきメンバー。どこだかわからないところにいること、どうやったら出られるのかわからないことから、いろいろと自暴自棄になって「もう嫌だ!」「かえりたい!」といったネガティブなことを叫んでしまいます。と、そういったネガティブな気持ちを叫んだメンバーが、どんどん、そのまま固まって動かなくなっていきます。
やがて「ネガティブなことを発言したから固まってしまった」との推測にたどり着いた生き残りメンバー(希空ちゃん、小野さん、秋山ちゃん)は、ネガティブなことを口にしそうになるところを自らの気持ちを鼓舞して、明るく前向きに気持ちを持ち直そうとします。
「絶対にあきらめない」という気持ちを口に出すことで、やがて固まっていたメンバーたちも復活していく…といったお話し。

非常に直接に「楽しい時を過ごす方法 気持ちを切り替えるしかない」「Happy Happy言っていたら 楽しくなるよ 言霊とは如何なる力」といった『Just Try!』をそのまんま踏襲した様な寸劇でした。

物語の中心となって事態の推測をしたり、ネガティブになりそうになったり、無理矢理ポジティブになろうとしてみたら案外ポジティブになれちゃったりと、その様子は、ステージ上の流れに添うようでいながら、自由にあれこれしている(お隣のメンバーと私語してたり、フラフラと遊んでたりする)希空ちゃんらしいところでしたが、劇中の盛り上がりに相応しく叫んでみたり弱気になってみたりと、希空ちゃんの演技にこそ刮目で、つばきファクトリーの次の舞台が楽しみになりました。マジで。

どことなくお母さん的な包容力を感じさせる小野瑞歩さんが、ネガティブになりそうな希空ちゃんをフォローしているところも、最年少の秋山さんが、希空ちゃんと瑞歩さんの会話をハラハラしながら見守っているところなど、これらの寸劇の脚本を描いたスタッフさんは、どこまで意図的なのか、メンバーたちのリアルな様子が上手に劇中に取り込まれていて、妙に感心するところです。

めっちゃ余談ながら、事態を探る中で「ネガティブなことを発言したから固まったのかもしれない」という観察と推測を述べるにあたって、その観察の一部として自分だって「ネガティブなこと」は発言しちゃってるわけで(「『もう嫌だ』って言ったから固まったのかも」とか)、その段階で固まらなかったのは設定上矛盾しているようでありながら、その発言が自分の真剣な気持ちからのものではなく、あくまで観察結果を第三者的に述べているだけだという区別がちゃんとついているところが、なにやら「超越的な観察者が介在している」という設定でしっかり回収されているのは、わりと細かいところに気配りが行き届いていると思ったりして。

シリアス劇場:カメリア/主演:小片リサ、谷本安美、小野田紗栞

明日のスターオーディションに申し込むかどうか迷っていた小片リサさん、華やかな世界には憧れるけれど、クラブのみんなで一緒に申し込もうと申し合わせていた模様で、他のみんなが合格して自分だけ落選したらどうしようとか、いろいろくよくよと迷って逡巡していたのでした。そこに入れ替わり立ち替わりやってくる谷本安美ちゃんと小野田紗栞ちゃんですが、どこか様子がおかしい。実は、谷本さんと紗栞りんは、小片さんの曾々お婆ちゃんである「つる」さんの霊に身体を乗っ取られていたのでした。
自分も女優だった、あの頃は男の人にもてた、自分にはやりたいことがいっぱいあったけれど肺の病気のせいで出来ないことがいっぱいあった、あなた(小片リサ)はとっても魅力的だから大丈夫…と、手を変え品を変え、曾々お婆ちゃんの霊に勇気づけられ、ついに小片さんはオーディションに申し込むことを決意するのでした。

もちろん「私もなりたい大スター」「本当になれるの?不安だわ」といった全体の前提から、お婆ちゃんの霊の回想にあるような「流した浮名の数は 流した涙ほど」に絡む小ネタまで、『うるわしのカメリア』の歌詞に準じた寸劇でしたけれど、何よりも『うるわしのカメリア』の大正モダンガールテイストを踏襲して、曾々お婆ちゃん(だと、うっかりすると幕末くらいにまで溯りかねないけれども)の若かりし頃のあれこれと、やりたいことがたくさんあったけど時代の制約(肺病!)で不可能だったということ、だから、そんな制約のないあなた(小片リサ)は、思いっきりやりなさいと、時代を超えて応援してくれるという寸劇の設定が非常にすばらしくて、時代を超えて夢見る女の子の健気さが見事に表現されているように思えました。

安美ちゃんは、お婆ちゃんの霊が離れて本来の自分に戻っている場面よりも、お婆ちゃんの霊に取り憑かれている場面の方が安美ちゃんらしかったというのは秘密で。

そして、お婆ちゃんの霊に励まされて、くよくよとした逡巡を振り切って、自分の本当の気持ちに素直に、まっすぐに夢を目指そうとする小片リサさんの姿が、あくまで劇中のことではあれど、小片リサ本人そのまんまのようで、前向きにオーディションに申し込むことを決意する小片さんの姿に、うっかり寸劇を越えて、客席で泣きそうになっていたことは、さらに圧倒的に秘密で。

シリアス劇場が踏襲するメジャーデビュー曲とメンバーたち

この先、どうなるかわからない。
だから、新たに示された「これから」は、常に不安に苛まれる道筋の見えない不透明な将来なのかもしれない。でも、どうなるかわからないということは、どうなるか見通せないということは、不安で恐いことであると同時に、自分の気持ちの持ちよう次第で、どうにでもなるということでもあり、だから希望に満ちているとも言える。
この先の「不安」と「希望」は表裏一体であり、だからこそ、そこに挑んでいく気持ちこそが大事になる。

つばきファクトリーのメジャーデビュー曲である『初恋サンライズ/Just Try!/うるわしのカメリア』は、このように寸劇仕立てで押し出されることによって、改めて、いかにも麗しく透明な逸材たちの「これから」を展望するに相応しい楽曲であったことが明らかです。
そして、楽曲がそのようにメジャーデビューに相応しいという以上に、これらの楽曲を携えてメジャーデビューする つばきファクトリーの9人が、自分の魅力に迷い、プレッシャーを感じ、ネガティブに負けそうになり、くよくよと逡巡する弱い自分を抱えながら、それでも「どうせ私なんて」といったところに逃げず、それぞれの経緯は異なれど、まぶしく見上げる自分の夢に向って、ある意味では愚直に、ある意味では健気に、まっすぐに手を伸ばしてチャンスをつかんでいったメンバーたちの儚い愛らしさと「うらはら」な力強さと、その「人として」の輝きの大きさに、感じ入らないではいられません。

それって投稿者が つばきヲタだからそう思うんでしょ?と思う方も多いでしょう。
けど上記のことは第一に、こぶしヲタの方が こぶしメンバーに、Juiceヲタの方が Juice=Juice に、もちろんベリキューに、モーニングに、アンジュルムに、カントリーに、そして研修生に、それぞれに感じるものと同じだとも思うのです。わたくしDDでもありますので。
そして第二に、やっぱり上述のシリアスな寸劇という今回のイベントの仕様が優れていたことは指摘したいところです。
この寸劇によって、メジャーデビュー曲に込められていた意味が、誰に目にも明らかな形で抽出されたことで、その意味を担って実際に現実の世界を走り続けるメンバーたちの、輝きや希望と「うらはら」の不安や焦燥感や辛さも、プレッシャーやネガティブさや逡巡と「うらはら」の踏み止まって前を向く気持ちも明らかになって、だからこそ、私たちにステージの上から微笑みかけてくれるメンバーたちが背負ったモノも、改めて如実に明らかになったことは、否定しようもないことかなと。
むしろ、そんなに重くなく、「あはは」と笑って楽しむ軽いものとして提供されたのかもしれない寸劇に、メンバーたちの「リアル」が滲みていて、うっかり泣きそうになったことも、秘密だけど、否定しようもなく。

さいごに 握手の点描を軽めに

こうした寸劇で、その込められた意味を明らかにした上で披露されるそれぞれの楽曲は、やっぱり胸に染みるものがありました。とりわけ第三回公演の『うるわしのカメリア』は、ほんとうに素晴らしかった。
投稿者は、ハロプロが好きになればなるほど、たとえば Dマガの編集者だったり前説のお兄さんだったり、ハロメンの周辺でも、手を握ってお礼を言いたいスタッフさんが増えていくわけですが、『うるわしのカメリア』に大正モダンガールのイメージを重ねたコンセプターというか演出家というか制作者さんには、心から感謝を伝えたい。

そんな具合にこちらの心も湿ったところで、お見送りの握手会というわけですから、これは文字通り「卑怯」なレベルですよね。

握手会前に一拍おいてお化粧直しなんかもしてるはずなのに、それでも汗びっしょりで、前髪なんかがおデコに張り付いちゃって、頬も上気させている浅倉樹々ちゃん、いつも、いつも、とびっきりの笑顔と大きな表情の動きで迎えてくれます。樹々ちゃんの前に流れていくことが嬉しく楽しみになるレベルで(すでに個別握手で樹々ちゃんのブースにも頻繁に訪問していることは固く秘する予定)。

握手の時間では言葉で確認することはできないけれど、大きな瞳をクルクルさせて、いつも何か言いたそうにしている山岸理子ちゃんも、ちゃんとお礼を言ってくれる岸本ゆめのさんも、泣いたような瞳をいつもウルウルさせている谷本安美ちゃんも、できることならば、いつかゆっくり語り合ってみたいですね。きしもっちゃんとは、Berryz工房の話しをしたいし、理子ちゃんとは℃-ute の話しをしたい。理子ちゃんが帯同してたツアー、何回も見に行ってたよって伝えたいですね。

いまだに「緊張してる?」とよく言われるらしい小片さんは、それって表情の変化が少なめだから、小片さんの気持ちを表情から読み取れなくて、握手してもらう私たちの側が戸惑ってるってことでもあったりするんだけど、実は内心、めっちゃ弾んで、めっちゃ喜んでるみたいですよ。

最後に、こんなシリアルイベントのお見送りの握手会なのに、それでも一言二言会話が可能なくらい、それも流しの握手会なのに、目指す推しメンとだけじゃなくて、全員と一言二言会話が可能なくらいの「ゆっくり」めな握手であることは、毎回、驚かされますよねとコメントして、簡単なレポを終えることにします。

*****

2016年の11月よりスタートしたリリイベラッシュを経て、投稿者の室内には、150枚を余裕で越える「つばきファクトリー メジャーデビューシングル」が山積みだったりしますが、今ほど、この棚から溢れ出ようとするCDシングルの山を誇らしく思うこともないでしょう。

いや~~、ライブハウスでオールスタンディングの3回まわしって、さすがに、もうオッサンには厳しいよなあと、途中までそう思っていながら、それでも終わったらニッコニコして帰ってきました。もちろん、次にライブハウスでオールスタンディングのイベントがあったら申し込む気満々で。
これから7月に向けて、セカンドのトリプルA面も楽しみにしています。

(文=kogonil)


Just Try!/うるわしのカメリア/タイトル未定(曲順未定)(初回生産限定盤SP)(DVD付)

価格: ¥ 1,909
出版社/メーカー: UP FRONT WORKS Z
発売日: 2017/2/22

 

エンタメアライブでは、皆様からの投稿を募集しています。
詳しくはこちらを御覧ください『寄稿について

Sorry, the comment form is closed at this time.