つばきファクトリー『春恋歌』が奏でる “春を迎える切なさ” は、つばきファクトリーそのものでもある

2018年2月21日にリリースを予定している つばきファクトリー3rd シングルの一角である『春恋歌』、これ、ものすごい名曲だと思いませんか。

もちろん、どこか控えめで落ち着いた旋律が過度にポップではない一方で、聴いていて微笑ましい印象を与えてくれることも、メンバーの衣装も、MV も、すべてが、上品に愛らしいということは言うまでもないけれど。
それよりも何よりも、『春恋歌』が、あまりにも つばきファクトリーらしいという点で、ものすごい名曲だと思いませんか。

それは、この『春恋歌』という楽曲が、非常に “どこか遠慮がち” に、しかし春の訪れと同時に新しい世界へと “明るい明日” へと向かおうとする明確に希望に満ちた曲であると同時に、だからこそ寂しくモノ哀しい雰囲気を持っていることについて。そして、明日へ向かう明るさと何故だか少し悲しい印象の同居が、実に つばきファクトリーらしいということについて。そんなことについて、少し。

 

旅立ちに伴う痛み ~大人になる少女たち~

春を迎え新しい旅立ちに向かう、そんな情景を歌い込んだこの『春恋歌』は、その意味で明るい曲です。

冒頭のフレーズも、サビの締めのフレーズも、この、春の訪れに伴う新しい旅立ちと、その一歩の先に希望を見ていることが明らかに、そして高らかに歌いあげられています。

さなぎが羽化して旅立ちます/柔らかな風に乗って
————
雪解けの新世界 恋を始めましょう

しかし、過剰にアップテンポでもなく、どちらかといえば “控えめ” に、すこし遠慮がちに、どこか大人しく、静かに気持ちを浮き立たせているような、粛々とした清楚な雰囲気も併せ持っています。そして、その粛々とした清楚な控えめさが、ある切なさにも通じているようです。

それは旅立つ者にとっても

それは、春を迎えて、新しく着替えてコートを脱いで、新しい自分に向って一歩を踏み出そうとする当人の視点からも。

新しく踏み出す先は、もちろん春を迎えた今の時点では希望しか見えないのだけれど、その先が順風満帆だとも限らないということは、自分でもわかっているから。
だから、『春恋歌』は、こう歌われます。

紡ぐ幸せ、勇気、涙、微笑み
————
芽吹く気持ち、想い、ときめき、痛み

幸せを紡ぐには「勇気」がいるし、それには「涙」が寄り添っていると。芽吹く気持ちの「ときめき」には「痛み」が伴うと。
春を迎え、明日に向って、嬉しげに、楽しげに一歩を踏み出そうとする当の本人が、踏み出した先の不安を、無意識に感じています。
それでも出かけなきゃいけないのは、「待っているきみ」がいるから。
しかし、待ってくれている「きみ」は、踏み出した先の幸せを約束してくれているわけではないようです。

きみを信じてみたい

この踏み出した先に何が待っているのが見通せないから、すこし不安ですこし恐いけど、信じたい「きみ」に向って、精一杯の笑顔と気持ちを携えて、それでも踏み出していくのだと。
明るく、楽しげに、明日に向ける眼差しを歌いあげるようでいながら、その明るさと希望のすぐ側には、少しの不安と少しの怖さが伴っています。そして、そのことを十分承知しながら、それでも、この自分は、春になって、この一歩を踏み出すのだ、と。

この決意には、もう、これまでの自分ではあり得ないことも含意されています。

素の私さらして

新しい未来と新しい自分に向って一歩を踏み出すことは、これまで通りの私ではいられないということでもある。これまでのように「素の私」を隠していることはできなくなる。
明るさと希望のすぐそばにある不安は、先が見通せないことよりもずっと、慣れ親しんだ今までの自分ではいられないことによるのかも知れません。

旅立ちを見送る側にとっても

そして、それは、そのように「旅立って行く」者を見送る側の哀切にも通じます。

中学生は春を迎えて高校生になります。学生は春を迎えて(人によっては)社会人になります。春を迎えて新しい出会いに遭遇する人もいるでしょう。新しい出会いの中から、生涯の友人、そして人生の伴侶を見出していく者もあるでしょう。どのように変化しようとも、春を迎えて、新しい環境に向けて一歩踏み出したその先で、新しい明日へと歩み始めた者は、それまでとは違った者になります。その “違い方” は、それぞれであっても、多くに共通すること、それは “これまでよりも大人になる” こと、これですね。

慣れ親しんだ今までの自分ではいられないことは、旅立つ側にとっても恐いことだけど、それは一方で、旅立たれる側、旅立つ若者を見守る側からしても同じように恐いことでもあります。 “確実に時間が流れていること” でもあり、親しかった、可愛かった、あの子が、もう自分が知っている “子供” ではなくなっていくプロセスでもあり、自分が慈しみ守り愛したあの子に、もう自分の愛情が届かなくなっていく過程でもあったりします。

ある意味で、「羽化して旅立」つサナギは、今まで自分を庇護してくれていた周囲のものや人を、後にして行くわけですからね。

ここで、そんな旅立ちの切ない情景を歌ってくれるのが つばきファクトリーである、ということが効いてきます。

つばき楽曲の系譜に沿って

つばきファクトリーは、ハロプロの先輩ユニットのスピリットを「継承」することが、その最初のコンセプトから、期待されていました。そして、その活動の初期にある舞台を演じることになります。その舞台の主題歌(『サンクユーベリーベリー』)では、こんなフレーズが歌われています。

消えてゆく声の余韻
生まれてくる声の予感
そのあいだの一瞬

最初、てっきり「消えてゆく声」が、ステージを去って行く Berryz工房で、「生まれてくる声」こそが、Berryz工房を継いでくれる つばきファクトリーだって、そう思いませんでしたか?

ところが、その後、つばきファクトリーは『サンクユーベリーベリー』だけではなく、『キャベツ白書』や『私がオバさんになっても』までもカバーしていくことになります。

ずっと『サンクユーベリーベリー』から、『キャベツ白書』、『私がオバさんになっても』と歌い継いでくれた つばきファクトリーが歌ってくれる『春恋歌』には、だから、そんな旅立ちの切なさと、その切なさを一要素とする時間の流れが歌い込まれているかのようです。

“どんな自分になるのだろう(『青春まんまんなか!』)” と、明日の期待と不安を歌う少女たちも、やがて、いつの日にか、老いていきます。
“若い子には負けるわ” と、「オバさん」を打ち負かしてきた自分たちが、いつしか自ら「オバさん」の立場で「若い子」たちに言及するように。
これからは私たちが稲穂を守るからと歌ってくれる若い孫たちの前には、同じようにかつて自分も上の世代から受け継いで今までその稲穂を守ってきた老婆がいます。
ハロプロのステージを守って戦ってきた先輩たちは、やがてステージを去って行きます。
現在のメンバーたちが煌びやかな輝きを纏っているステージは、いつしか、未だ誰も知らない未来の後輩たちに受け継がれていきます。

今、先輩たちが守ってきたものを「継ぐ」と歌ってくれている少女たちは、それを「継ぐ」からには、やがて後から産まれてきた者たちに、自分が継いだバトンを渡していくことになります。

ステージを去って行った先輩たち、その更にずっと上の先輩たちからハロプロの灯を受け継いで守ってきてくれた先輩たちを「継ぐ」ということは、いつの日にか自分たちがステージを去って行くことまで含めて「継ぐ」ということ。

だから、「消えてゆく声」が Berryz工房で「生まれてくる声」が Berryz工房を継いでくれる つばきファクトリーなのではなく、そうではなくて、「消えてゆく声」が Berryz工房で、「生まれてくる声」は、まだ見ぬ明日の若き後輩たちなのであって、つばきファクトリーは、今、先輩たちを継ぐと言ってくれているメンバーたちは「そのあいだの一瞬」である、と。

永遠だと思っていた時間は永遠じゃないからと歌う「消えていく声の余韻」と「生まれて来る声の予感」の「そのあいだの一瞬」は、ハロプロについての比喩であるに留まらず、”私が来る前にこの場を去って行った先人” と “私が去ってからやってくる者“ とを繋ぐあらゆる人生そのものでもあります。

旅立つ当人の変わっていくことへの不安と旅立ちを見送る者が抱く切なさを介在する “確実に時間が流れている” という主題は、つばきファクトリーが歌い継いでくれる楽曲の連なりに繰り返し表現されているかのようです

そして『春恋歌』は、一歩踏み出した先には明るい希望だけがあるわけではないことを、踏み出す前から先取りして “知っているかのような” フレーズが繰り返されます。

紡ぐ幸せ、勇気、涙、微笑み
————
芽吹く気持ち、想い、ときめき、痛み

幸せを紡ぐには「勇気」がいるし、それには「涙」が寄り添っていると。芽吹く気持ちの「ときめき」には「痛み」が伴うと。そして、あるいはそれは、この「微笑み」にたどり着くまでには「涙」もあったよと回想しているかのようでもあり、この「芽吹く気持ち」の先には「痛み」だってあったよと、経験する前から知っているかのようでもあります。

その明るすぎない旋律も含め、それは、どこか “旅立った先の新しい自分” を、あらかじめ先取りしているかのようです。あたかも、大人になった つばきファクトリーが、ずっと何年も先の時点から、こちらを振り返って微笑んでくれているような

2018年2月21日にリリースされる つばきファクトリー3rd シングルの『春恋歌』、これは、実に “つばきファクトリーらしい” 名曲かと。

(文=kogonil)

 

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