道重さゆみ いつか来るその日に向けて~【読書感想『しおんは、ボクにおせっかい』】~

疲れているとき、困っているとき、こんな幼馴染が近くにいてくれたらと切実に思いますよね。”いやいや、いかにもベタベタな設定だから、さすがに現実味がないよ” と、若い頃なら、そう思っていたかもしれません。しかし、実際に世の中で、いろいろと厳しい場面にも遭遇してみると、かえって切実に、こうしたサポートが欲しいとも思うよなあ… …とまあ、途中までは、こんな具合に、いわば “お気楽に” 読み進めていたんですけど、最後の最後に、いろんなものを持って行かれました。

その最後の最後はネタバレともなるので述べられませんが(記事の末尾で、ちょっと触れます)最初にページを開く前には思ってもみなかったほど、いろいろとかき乱されることになりました。

そんな素敵な読書体験ができたので、皆さまにもおすそ分けです。

作家の大村あつし氏の新刊、『しおんは、ボクにおせっかい』のカバーに道重さゆみさんが登場していることが話題になったのは、つい先日のこと。

Amazon にある「あらすじ」はこんな感じです。

【あらすじ】
仕事もプライベートも冴えない日々を送っていた雄大。そんな彼のもとにかつての幼馴染しおんが突如現れた。14年ぶりの再会に喜ぶ雄大だが、近況を語る彼の言葉にしおんは顔をしかめる。そして彼女は雄大が幸せになるための「法則」を語り始めた――。

Amazon 『しおんは、ボクにおせっかい』ページ

冒頭で、幼い頃の主人公雄大くんとしおんの出会いが語られます。このパートで登場人物の来歴と関係性が語られた後で、本書のメインは、ある程度大人になってから再会した幼馴染2人の物語が語られるという構成です。

しかし…軽く(大人になってからの自己啓発的な内容をスムーズに記述するために)触れられているだけであるような、幼き日々の出会いがとても大きな意味を持っています。それは、2つの意味で。

ひとつには、2014年に横浜アリーナで卒業してから(参考:エンタメアーカイブ「ハロヲタ達のありがたさ(11月26日道重さゆみ卒コン当日、好きという気持ちを受け止めきれない極私的な風景)」)2017年に再生(参考:「人生初の体験だらけの再生の宴 【短報】 SAYUMINGLANDOLL~再生~」)した道重さんの現実の経歴が、幼馴染としての幼い頃の日々と、ある程度大人になってからの再会という物語上の構成と重なるということ。とりわけ、物語の上で、ある程度大人になってからの再会を喜び合っていることや、二人の距離が近くなっていくことの根底に、再会以前の幼い日々が大きく影響していることは、再生してからの道重さんの活動にファンがしっかりついていくことの根底に、休業以前からの道重さんの姿勢が大きく影響していることに、重なります。

職業も、離れていた経緯も、再会した経緯も、物語上で語られる雄大としおんの関係は、もちろん現実の道重さんの経歴と重なるところは一切ないのに、大枠の物語上の設定が、これまでの道重さんの来歴とファンとの関係に、驚くほど重なる…だけではありません。登場人物としての「しおん」の些細なセリフの一つ一つが、どうにも読んでいる私の脳内で、道重さんの声で再生されるのには困りました。

最初は、カバーに道重さんが登場しているから、だからそう感じるのかと思っていたんですが、これは著者が意図的に道重さんを想定して執筆したことによるようです。

道重さゆみさんは、
僕がイメージするしおんそのものなのです。

大村あつしの本棚 『しおんは、ボクにおせっかい』はなぜ道重さゆみさんなのか?

…って、そんな風に作者が意図したからって、そのまんま道重さんらしくなってるわけないだろ!…と、古参のファンほど疑いを持つかも知れません。そこは是非、本書を手に取って欲しいのですが、道重さんに関して古参である点では、そう自称しても許されるであろう私自身(6期オーデ以来のファン)、やっぱり斜に構えて本書を手に取ったものの、読み進めるうちに、すっかり「しおん」の発言が道重さんの声で脳内再生されるようになったのは、ぶっちゃけ、自分としても驚きでした。

さて、本書のメインである再会してからの2人の日々ですが、仕事上の困難に直面した雄大くんに対して、しおんは、これがまた、業種も違えば(長い別離の後の再会であるから)雄大くんの人間関係にも詳しいわけでもないのに、やたらおせっかいなんですね。これがまた繰り返し、現実の道重さんとも重なるんです。

いや、道重さんが「おせっかい」だというわけではありません。そうじゃなくて、その「おせっかい」にあたって、遠慮なく踏み込んで率直に語るところ、言ってみれば “ぺちゃぺちゃ” と、それこそ「口から産まれた」ように、訝しむ雄大くんを(口頭で)屈服させるような、その率直な饒舌さこそが道重さんらしく感じられて、脳内再生もはかどろうというもの。さらには、そのように(あたかも無遠慮であるかのように)踏み込んでくるにも拘わらず、一切、下品さとか強引さが感じられず、雄大くんにとって、踏み込んで来られることが、どこか嬉しく、微笑ましく迎えられているところは、まさしく道重さんの饒舌が自由気ままに展開しながら、決して下品に流れず、ファンに嬉しげに迎え入れられている様子と重なります。

本書での物語の展開、雄大くんが直面した困難と、それに対して「しおん」がどうアドバイスしたのか…それらの詳細は是非本書をお手に取っていただくとして、繰り返し、ここでも大枠として、自分の思い通りに語り、自分の思った通りに振る舞い、そして、願った通りに、自分の大事な人に元気を与えることそのものが、現実の道重さんと重なるのです。

幼い日々が根底にあってこその再会以降の展開が、卒業以前から再生以降の現実の展開と重なっていること。「しおん」の遠慮のない饒舌が、しかし下品に流れず愛らしいものであること。「しおん」の自由奔放であるかのように見える振る舞いの一切が、自分の大切な人へ勇気と元気を与えることに向かって意図されたものであったこと。… このように、個々の「しおん」のセリフが逐一道重さんの声で脳内再生される以上に、全体として本書が現実の道重さゆみさんと重なるところの大きさに驚きます。

そんな次第ですから、本書は、道重さんのファンであればそれだけ、一層楽しく、一層深く、読むことができるのでないでしょうか…という意味でも、非常にお薦めです。

*****

…と、ここで終わることができれば、感想文としても、本書の推薦文としても、まずまずの記事になったかと思うんですが、ここで終われないのが辛いところ。

上に、全体の物語構成上、幼き日々の出会いがとても大きな意味を持っているとして、それには2つの意味があると述べました。まだ、その2つめの意味を語っていません。というか、重大なネタバレになるので、語れません。

そして、本書の物語が、現実の道重さゆみさんと重なるところが多ければ多いほど、この語れない2つめの意味が、いかにも切ない予感をもって、私たちファンの前に迫ってきます。いや、アイドルとファンという関係である以上、いつの日にか、必ずその日が訪れることは、ファンは覚悟してはいるんだけれども。

あれだけ饒舌に踏み込んできていながら、本当に大事なことは最後まで語らないでいた「しおん」も、事態がそうなって初めて、ようやくすべてを悟った雄大くんも、それまでの物語が(上記のとおり)とても丁寧に紡がれていただけに、胸を抉られるような喪失感をもたらします。…そう、繰り返し、いつか必ずその日が訪れることは、ファンは無意識に覚悟しているんだけども。

だからこそ、そうでなくとも会えない辛い日々が続くなか、「しおん」が雄大くんに教えてくれた、呼吸法も、ノートも、瞑想も、その日に後悔しないように、雄大くんに倣って、私も実践してみようと思います。おススメですよ。

(文=kogonil)

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