【ライブレポ】アンジュルムツアー武道館『百花繚乱』福田花音卒業SP ~神童と謳われたアイドルのやっぱり非凡な卒業セレモニー~

福田花音卒業スペシャル11月29日、アンジュルムのオリジナルメンバー福田花音が、<アンジュルム ファーストコンサートツアー2015秋『百花繚乱』>のツアーファイナルとなる日本武道館公演<~福田花音卒業スペシャル~>をもって、グループを卒業した。

この公演は、福田花音が「神童」と評されたハロプロエッグ時代から、シンデレラの生まれ変わり時代、白い妖精まろちゃん時代まで11年間を凝縮した圧巻のステージを見せつけた。それはまさにアイドル人生の集大成とも言える大逆転劇だった。

アンジュルム、百花繚乱

オープニングは、これまでのツアーセットリスト同様、最新シングル『出すぎた杭は打たれない』で幕を開けた。ハロプロ史上最速のBPMとLovendoЯ魚住による超攻撃的なギターリフが、のっけから武道館の聴衆を興奮の渦に巻き込んでいく。いや首根っこを掴まれて渦の中に投げ込まれるというか、ホールツアーを成功させ、勢いにのる今のアンジュルムは、そのくらいの力を発散している。

続く「不屈不撓路線」の『七転び八起き』から、「私たち、アンジュルムです!」の力強い自己紹介を挟んで『新・日本のすすめ! 』。改めて今夜のショーの始まりを告げるが如きファンファーレから、田村芽実と福田花音が高らかに歌い上げるミュージカル・レビュー調のオープニングになり、突如メタル調のスラッシュビートに、サビでアイドルポップに切り替わる怪曲だ。さらには地球規模の人類愛が会場を幻想的に蒼く包み込む『地球は今日も愛を育む』、和製スパイスガールズとして名高い(?)名曲、『ええか!?』でつんく♂師匠の元気な「えぇか!?」ラップが響くお祭り騒ぎに、1万人の聴衆が「ええじゃないか」とばかりに踊り狂う。

まるでジェットコースターのように一曲ごとにガラリと曲調が変わり、しかしそのどれもが間違いなく濃密なアンジュルム・ワールドに他ならない。まさに「百花繚乱」である。ここまでバラエティに富んだ曲を完全に自分のものとするには、高いパフォーマンス力が要求される。そして、その高水準のパフォーマンスを、抜群に安定した音程の歌唱で支え続けてきたのが福田花音だった。

新メンバーお披露目&サブリーダー人事発表

ここで、本ツアーでお馴染みの新メンバーのお披露目。熊本県出身の上國料萌衣が、白い衣装で初々しい挨拶で会場の「フー!」を一身に集めた。今日はこれだけでMCが終わりではなく、アンジュルムからサプライズ発表が。それがこの「サブリーダー人事」だった。福田花音から「私が卒業すると、初期メンバーがあやちょ一人になっちゃうんで、それじゃあ寂しいだろうから、なんと…」と十分なタメを作り(なんと?まさか寂しいから和田彩花まで一緒に卒業時期を発表するのか?と一瞬焦ったのは筆者だけではあるまい)、サブリーダーに中西香菜、続いて竹内朱莉の両名が選ばれたことが発表された。

中西香菜、竹内朱莉コンビといえば、二年前につんく♂より「ヤッタルチャン大作戦」の担当者および補佐役として任命された2人である。中西はこの作戦を成功させたことで自信を得て、のちにはヤッタルチャン大国の総統にまで登りつめたほどの人材だ。

これはおそらく、来るべきその時のために、次期リーダーとサブリーダーをこの2人に任せようという思惑も隠されているのではないだろうか。
ちょっと突拍子もないことを言うけど中身は意外と熱くてスタイルの良いリーダー。しっかり者でMCも歌も安定感があり、ちょっと丸いサブリーダー。ほら、なんだか和田・福田の関係性にも似ているではないか。

また、この「サブリーダー」という今までなかった「肩書」が導入されたことをもって、モーニング娘。と同様の卒業システムが有効になっている、パーマネントな大所帯グループとしての体制が完成したのだろうと筆者は考えている。

サブリーダー人事発表を挟んで、最新曲『ドンデンガエシ』から『乙女の逆襲』『寒いね。』『プリーズミニスカポストウーマン』『夢見る 15歳』と、名曲をプレイバックしていき、スマイレージ時代からアンジュルム時代まで、このグループがいかに潤沢で価値ある曲資産を築いてきたことか、と感慨にふけった所で、前半戦は一段落。衣装替え&小休止のために、ここでようやくタイトル映像が流れる。

RUN!RUN!RUN!

映画『ラン・ローラ・ラン』のトレイナーかのように、白い服に身を包んだアンジュルムメンバー達が、ひとりずつ走る・走る・走る! この走り方がそれぞれのキャラクターが出ていて楽しい。完全にスプリンター走法でガシガシ走る竹内朱莉、本人的には本気なのだろうけどのんびり走ってるように見える(実際遅い)相川茉穂、禁忌のおでこ全開で意外と省エネでない勝田里奈、そして明らかに手を抜いてアイドルスマイルを崩さずに女の子走りをしている福田花音。ちなみに、彼女たちが本気で走るとどうなるかは、『アンジュルム DVD MAGAZINE Vol.1』に50m走の模様が収録されている。

デュエットメドレーという最高の卒業セレモニー

コンサート中盤で最高の盛り上がりを見せたのは、このメドレータイムだった。それもただのメドレーではなく、福田花音が、他のメンバーとひとりずつデュエットしていくというスペシャルメドレー企画だ。

和田彩花と福田花音が歌ったのは『ふたりはNS』。きらりん☆レボリューションの企画ソング(挿入歌)ではあるが、2人のファンクラブイベントで一度だけ歌ったことがある。「正反対なのに、二人一緒だとなぜか落ち着く」確かに、これほどこの2人の関係性をぴったり言い表した歌は他にないかもしれない。

続く佐々木莉佳子は『黄色い自転車とサンドウィッチ 』ではハツラツと、相川茉穂との『しっかりしてよ!もう』はあくまでも可愛らしく、室田瑞希とは『踊ろうよ』でキレのいいダンスバトルを見せ、懐かしの『すまいるブルース』では須磨入姉妹(福田花音・田村芽実)のオリジナル・メンバーでの最後の晴れ舞台をおならをこきながら情感たっぷりに唄い上げた。勝田里奈とはカントリー娘。の名曲『恋人は心の応援団』で、ファンに省エネスタイルへの理解を求めつつ、『ねぇ 先輩』では先輩として竹内朱莉の格好良さを引き出し、最後は『ヤッタルチャン』で、なんと冒頭のセリフを自らが担当するというヤッタルチャンぶり。

某空手団体では、昇級時に道場の黒帯全員と連続組手をとらなくては認められないというが、この「アンジュルム8人連続メドレー組手」は、まさに去りゆく福田花音からメンバーに仕掛けられたガチンコ組手だった。といっても福田が他メンバーを圧倒する、というようなものではなく、福田花音は8人それぞれのキャラクターや曲の雰囲気にスッと合わせ、相手の良さも自分の良さも全て引き出していくのだ。バラエティに飛んだスマイレージ&アンジュルムワールドを縦横無尽に走り回り、しかもメンバーそれぞれのキャラクターに完全に寄り添い、良い所を100%引き出し、もちろん自分の見せ場も120%で展開する様は、あまりにもマロテスク。かつて「神童」と呼ばれた大器の面影を覗かせていた。

福田は事前に「ありがちだと思うけど、今までどのアイドルも卒業コンサートでやっていなかったことをやろうと思っている」と予告していた通り、蓋を開けてみれば「メンバー全員とデュエット」というのはたしかに誰もが思いつきそうでいて誰もがやっていなかった、しかも盛り上がり&感動間違いなしの企画だった。しかし一体、どれほどのアイドルが、これほどメンバーを観察し、ここまで自分たちの持ち曲の要諦を把握し、かつ自分をもプロデュースできるだろうか。

公演後に更新されたブログでは、福田花音自ら、このメドレーの選曲コンセプトと、メンバーに対する思いが綴られている。どれも福田の深い観察眼とメンバーへの愛、セットリストを組み立てるプロデュース思考が現れており、必見の内容だ。つんく♂が手を引いた今、福田には今後もコンサートプロデュースなどの立場から、アンジュルムに関わってほしいとさえ思う。(干物女の写真集とかはいいから)

友よ 怒涛の後半戦

後半戦に移る前に、ハロプロリーダー矢島舞美がサプライズ登場し、福田花音へ向けた手紙を朗読。事前に「卒業コンサートで泣かない」と宣言していたにも関わらず、やっぱり泣いてしまう福田花音。ここで流れは一旦途切れたが、続く福田花音ソロ『わたし』で会場のボルテージは一気に復活。自らの卒業ソングの歌詞を書き下ろすという、これまた前人未到のセルフプロデュースに成功した福田花音が、「明日から肩書のなくなってしまうわたしだけど、ちゃんと見つけて応援してね」と観客に無理難題を押し付けるのだった。

続く『交差点』は、新アルバム『Selection Album 大器晩成』(通常版)に収録されている新曲。別々の道を歩むことになった友に向けて、哀惜のメッセージを送る、落涙必須の反則当て書きバラードである。しかも歌うのは福田を除いた8人のみ。こんなん、泣くしかない。
しかししんみりしたままではいさせないのがアンジュルム。ここで投下されたのがスマイレージ時代からの盛り上がり必至キラーソング『私、ちょいとカワイイ裏番長』だ!研修生の舎弟たちも現れ、福田花音が、田村芽実が、客席を煽る、煽る、煽る!武道館と、全国の映画館が「チョイカワ!」大合唱の一体感に包まれた。そのままの勢いで『新しい私になれ!』『同じ時給で働く友達の美人ママ』『有頂天LOVE』『臥薪嘗胆 』と突っ走り、次はアルバム『大器晩成』(通常版)より2つ目の新曲、『友よ』。これも卒業ソングながら、『交差点』とは打って変わってエイトビートの痛快なロックナンバーだ。「サヨナラはすこし堅苦しい 私たちの合言葉なら『バイバイ』」とは、和田彩花からのはなむけの言葉か。

「友よ 約束しよう
迷ったら ここに集合
友よ 前だけ向けよ こんなもんじゃないだろう?
急がなきゃ置いてくぞ
さよならじゃない そうバイバイだ!」

力強いビートが、どこまでも前向きな歌詞が、そしてメンバーの涙目の笑顔がひたすら眩しくて、直視に堪えない。眩しくて眩しくて、でもずっと見ていたい。

そうは思っても、次でラストナンバー。最後はアンジュルムの今年の躍進を決定づけた名曲『大器晩成』だ。何度聞いてもこの曲には奮い立たせられるものがある。曲とグループとメンバーと時期が、本当に奇跡的にポジティブに噛み合った曲だった。しかもこの曲は、人知れずアンジュルム4期メンバーの運命を決定づけていたのだから、人生何が起こるかわからない。

アンコール 私の心

アンコールで現れた福田花音は、まさに魔法がかかったシンデレラのように、銀色に輝くティアラをあしらい、ゴージャスなファーの付いたピンクのドレスで降臨した。歌うは福田自らが最後に歌う歌として選曲したつんく♂乙女ソングの鉄板バラード『私の心』だ。揺れ動くつんく♂乙女心を、センターステージで情感たっぷりに歌い上げる福田花音の安定感のある歌声が場内をしんみりと包んでいく。

福田が歌い終わると、メインステージにはメンバー8人が整列し、中央にはピンクのポーチバックが飾られたマイクスタンドが立っている。ゆっくりと歩いて行く福田。場内は寂として咳一つなく静まり返り、福田が歩く靴音と、マイクが拾う衣擦れの音すら聞こえる。ポーチの中には手紙が入っており、福田花音から、11年間のアイドル人生への感慨と、ファンへの感謝と塩対応のお詫び、そして各メンバーへの感謝が語られた。最後には、「いつかアンジュルムが大ブレイクするときのヒット曲を作詞家・福田花音が書かせていただけたら…絶対に叶えてみせます!」と宣言して喝采を浴びた。

アンコール2曲目は『旅立ちの春が来た』。そういえばこれも卒業ソングである。発売当初は単なる季節ソングとして聞いていたが、こうしてアイドルの花盛りの有終の美を飾り、旅立っていく福田花音が歌う姿を見るのは感慨深い。その後は、8人から福田花音へのラストメッセージが語られた。のっけから顔をぐしゃぐしゃにして泣いている佐々木莉佳子からカラッと笑っている和田彩花まで、みんなが福田花音との思い出と感謝を語る。そうだ、みんな福田花音が、まろが大好きだ。かにょんがスキちゃんだ。かくして、最後の最後を飾るのは、スマイレージの幸福感を象徴するハッピーソング『スキちゃん 』で決まりだ。1万人の観衆が5年分の「かにょんがスキちゃん!」を叫び、アンジュルム福田花音の最後のステージは締めくくられた。

まろは最後までマロテスク これからもマロテスク

幕が降りても鳴り止まない「花音!花音!」コールに、福田花音がもう一度1人で挨拶に現れた。「今までみなさんが応援してくださった11年分の愛があれば、この先も私はどんなことでも乗り越えていけるんじゃないかな」といいことを言い始めておいて、なぜか「塩対応」批判への言い訳に終始してしまうという蛇足感の漂う挨拶だったが、それもまたまろらしい。まろはいつでも、現実と非現実の狭間を漂いつつ、周到に準備されたアイドルの仮面を被ってきた。明日からはその仮面を外すが、まろはまろらしくマロテスクな日常を続けていくのだろう。最後のあいさつは、そんな確信めいた予感を抱かせてくれた。(翌日、すごい勢いでTwitterを始めた福田の姿に、予感は正しかったことを確認した)

今回の卒業公演は、そのセットリストや衣装などに、福田花音自身の意向が多数反映されたものだったという。アイドルというのは、通常は誰かにプロデュースされるものであり、指示されることをうまく表現するのが普通である。しかし福田花音の自己演出力は、その粋をはみ出している。しかもアイドルとしてのパフォーマンスも完璧なのだから、非凡としか言いようがない。誰にも相談せずに卒業を決意し、自分で卒業ソングの詩を書き、自分で卒業コンサートを演出して去っていく。こんなアイドル、今までにいただろうか?

この日8人メドレーで見せたような、構成力とプロデュース力、そしてもちろん自ら作詞までして演出する、自己アイドルプロデュースの高さ、抑えきれずにほとばしるハロプロ愛は、今後”作詞家”福田花音がいかなる形で活動していくとしても、必ずや活かされるものと信じている。作詞家兼アイドル、作詞家兼コンサートディレクター、作詞家兼プロデューサー、作詞家兼ユーチューバー。まろなら、そんな形のこれまでにない作詞家像も実現可能だろう。

今後も福田花音からは目が離せない。とりあえずTwitterアカウントは要フォローだ。

これからのアンジュルムは

今日のコンサートは、卒業公演として涙あり、笑いありの素晴らしいものだったが、コンサート単体としても非常に質の高いエンターテイメントに仕上がっていた。どのメンバーも、歌、ダンス、表情、そして堂々たるMCも客の煽りもめきめきと実力を付けていて、楽曲の良さと相まって全く観客を飽きさせない。9人という大人数の迫力と、個々の実力とキャラクターの魅力とが合致している。

ちなみに、ここまで武道館レポートを書き連ねておいてなんだが、筆者が見たのは都内某所にある映画館でのライブビューイングなのだった。そこのライブビューイングでは、観客の6割以上が女性客で、普段ライブハウスを敬遠している潜在的な女性ファンがかなり多いことを実感した。女性ファンの多さは、アイドルのブレイクのバロメーターだ。これはキテいる。アンジュルム、キテますよ!

(文=宮元 望太郎)

ファーストコンサートツアー2015秋~福田花音卒業スペシャル~

01.出すぎた杭は打たれない
02.七転び八起き
MC①(自己紹介)
03.新・日本のすすめ!
04.地球は今日も愛を育む
05.ええか!?
MC②(新メンバー紹介、サブリーダー発表)
06.ドンデンガエシ
07.乙女の逆襲
08.寒いね。
09.プリーズミニスカポストウーマン
10.夢見る 15歳
VTR(RUN!RUN!RUN!)
11~18.メドレー
ふたりはNS(和田・福田)
→黄色い自転車とサンドウィッチ(福田・佐々木)
→しっかりしてよ!もう(福田・相川)→踊ろうよ(福田・室田)→すまいるブルース(福田・田村)※須磨入姉妹
→恋人は心の応援団(福田・勝田) ※オリジナルはカントリー娘。に石川梨華(モーニング娘。)
→ねぇ 先輩(福田・竹内)→ヤッタルチャン(福田・中西)
矢島舞美からの手紙朗読
19.わたし(福田)
20.交差点
21.私、ちょいとカワイイ裏番長
22.新しい私になれ!
23.同じ時給で働く友達の美人ママ
24.有頂天LOVE
25.臥薪嘗胆
26.友よ (アルバム新曲)
27.大器晩成

▼アンコール
28.私の心(福田)
福田かからファン・メンバーへの手紙
29.旅立ちの春が来た
MC③
30.スキちゃん


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