“誰かの真野恵里菜”と”みんなの真野恵里菜” ~アイドルとファンの成熟について~

ハロプロOGで女優の真野恵里菜が入籍した。
サッカー・ワールドカップ日本代表の柴崎岳選手と幸せなゴールインを果たしたことが、当人のブログによっても公式に報告されている。

私事で大変恐縮ですが、
この度、かねてよりお付き合いをさせていただいておりました柴崎岳さんと今月入籍致しましたことを、ご報告させていただきます。
真野恵里菜 オフィシャルブログ July 16, 2018 皆様へご報告

数日前から(いや、もっと前から)いくつかの噂は流布していたが、その段階では所属事務所からも特段のコメントはなかった。それが、三連休の最終日に正式にお知らせされ、事務所のサイトにも告知が掲載されている(2018.07.16 / 真野恵里菜入籍のご報告)。

真野恵里菜は、ハロプロエッグ(2期)出身のハロプロメンバーで、2009年に『乙女の祈り』でデビュー(インディーズでは2008年にデビューしてお披露目イベントを開催している)。
その愛らしいルックスや、元℃-ute のリーダー矢島舞美に匹敵する雨女としても知られる一方、リリースする楽曲のリリカルさでも、真野恵里菜に専心するファン(いわゆる “マノフレ“)を超えて、多くのハロプロファンに愛された。とりわけ、真野のメジャー10枚目のシングルである『My Days for You』(2011年)は、3枚目のアルバム『More Friends Over』にも、ラストのベストアルバムにも収録され、今日にいたるも、現役、OG問わず、多くのハロプロメンバーのソロイベントでカバーされており、披露される都度、ファンの心の琴線に触れまくっている楽曲でもある。
こうした印象深い活躍を見せながら、2013年にハロー!プロジェクトを卒業し、その後は、実写版 機動警察パトレイバー『THE NEXT GENERATION パトレイバー』に主演するなど、(実際はハロプロでメジャーデビューする前から演技経験は豊富だったが)女優として活躍の幅を広げていた。

ハロプロを卒業してからは、女優として、(アイドルという観点から見れば)かなり冒険的な演技にも挑戦しており、その軸のブレない姿勢が、一見するとアイドル時代のファンを顧慮しない態度のように見えることもあったが、近年になっても、かつてのファンに呼びかけるイベントも開催したり、オーディション番組のナレーションを担当したり、ハロプロの公式Web配信番組にもゲスト出演したり、ハロプロ20周年を祝う夏のコンサートツアーにもゲスト出演が決定している。また、ハロプロOGについてメデイアで話題になるときに自分の名前が挙がらないことについて「もう慣れた」と皮肉なコメントをするところからも、ハロプロへ依然として強い愛情を抱いていることが伝わっていた。

そんな中、このほど正式に入籍したことがファンに伝えられたという次第。
そして、この報に接して、ファンの反応は概ね好意的だ。

ハロー!プロジェクトのメンバーは、アイドルであることを卒業してからも、なんらかの形で、アイドル時代のファンの前に姿を見せ続けてくれる者が多い。よほどの事情があった者や、完全に芸能生活から引退してしまった者など、わずかな例を除いて、基本的には、たとえアップフロントを離れようとも、また卒業の経緯に不穏なものが含まれている場合であってさえ、その消息を(ファンがその気になれば)追えるメンバーが多いだけでなく、それこそハロプロ20周年であることからも明らかなように、すでに入籍し、妻となり、母となっている卒業メンバーも多い。そして、そうしたOGメンバーに対して、アイドル時代のファンが一方的に冷淡かといえば、まったくそんなことはないのが実情だ。
筆者が直接採取できた証言に、先ごろ母となった Berryz工房(活動停止中)の菅谷梨沙子に対し「早く娘さんの学費を払わせろ!(有償のイベントをはやく開催して欲しい)」と渇望するファンの声もあるように(ちなみに、この証言者は、菅谷の妊娠が報じられた直後は落胆していたことを付記しておく)。

おそらく、多くのファンは、自分が愛するアイドルとの適切な距離感というものを肌感覚で理解しているのではないだろうか。
また、最初に “適切な距離感” を把握し損なったファンであっても、長く現場に通う中で学習するということもあるだろう。いわゆる接触現場で「○○ちゃんが俺を覚えていてくれた!」とか、ライブで「○○ちゃんが目線をくれた!」と、推しメンとの間で個的な関係を作れたと思う場面があったとしても、次の握手会で、あるいは次のライブで、「あれ?」とか「おや?」とか「こないだと全然違うじゃねぇか」といった経験を繰り返して。

そう、多くのファンは、自分が愛するアイドルとそのアイドルをやってくれている生身の女性が違うということを、よく理解している。アイドルと、そのアイドルをやってくれている女性とが、同じ現実のリアルな対象として重なっていることから、うっかりすると勘違いもしがちだし、メディアの論調もこの両者を曖昧にして区別しないものが多いが、自分が愛しているのは、”生身の女性が仕事として(と同時に自らの夢としても)演じてくれているアイドルという仮の姿” であるということ、自分が関与し、自分がリアクションするのは、その意味でのヴァーチャルな “アイドル” に対してなのであって、そのアイドルを演じてくれている生身の女性は別であるということを、多くのファンは理解している。
いわば、そこに重なって同じ対象としてリアルに存在していながら、レイヤーが異なる、ということを。

むしろ、生身の女性としてのリアルな人間関係と、いってみればヴァーチャルな仮想上の人格として演じられたアイドルとの関係は、レイヤーが異なるからこそ、だからこそ、それぞれに独立したものとして、共存できるのではないだろうか。
すなわち、リアルな女性が持つことになるリアルな恋愛関係と、そして、仮りそめの人格としてステージ上で演じられるもう一人の自分との間に結ばれるファンとの関係と。
複数の「愛」が同時に成立する余地・可能性は、ヴァーチャルな形で多重に存在する「アイドル」だからこそ見出されるのではないだろうか。

そして同時に、やはりファンは理解している。
リアルな人間関係の中でパートナーに向けられる愛情と、ファンに向けられる愛情が “違う” ということを。そして、それは ”違う” ということの重みと同時に、ファンに向けられた愛情が、必ずしも、仮の、ヴァーチャルなものであるわけではないということもまた、理解されている。
ファンに向けられたものが、リアルに “この私” に向けられた生身の愛情ではないことを承知しながら、同時に、アイドルが語るファンへの感謝に嘘はないことも、ファンは知っている。

真野恵里菜の入籍について、ファンの反応は、基本的に好意的だ。
20周年を迎えて、演者も、ファンも、それなりの成熟を見せているということなのかもしれない。

(文=椿道茂高)

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