鈴木愛理、初単独武道館で示したのは “22通り” の多彩な鈴木の背後で揺るがぬ愛理

2時間まるごと、1人で歌うんだから、衣装チェンジとかもあるだろうし、ゲストなり長めのVTRなりを準備しておいて、けっこう頻繁に鈴木愛理はステージから引っ込むことになるかも。だから、間延びしたステージになっちゃうんでは?

これまで5人ないし3人で歌ってきたところを1人で歌うんだから、息切れもするだろうし、ダンスは控えめになるんじゃないかな。高音の伸びやかなパートを朗々と奏でるっていうようなことは少なくなって、声を整えるために息継ぎが多めで、あんまり愛理らしくない歌になっちゃうんじゃない?

アーティストとしてのお披露目でもあるんだから、ガンガンにスタイリッシュに攻めて、℃-ute や Buono! のことには触れないんじゃないかな。孤高のアーティストなんだから、ひょっとして MC すら少なめで、スカパーでも放送されるから、若い新規ファン向けにキャラまで変えてくるかもね。

…と、そんな具合に思っていた方も多かったのではないかと。
ええ、元℃-ute の鈴木愛理さんの、初単独武道館公演『AIRI SUZUKI 1st LIVE 〜Do me a favor @ NIPPON BUDOKAN〜』について、です。

最後の “キャラを変えてくるのでは” というのは、さすがに斜めから見すぎだとしても、たった1人で武道館のステージをまるっと2時間引き受けるのだから、ステージ構成や歌い方が体力的にも無理のないものになるのは、わりと自然なようにも思えましたけども…

もちろん、そんなことは、一切、まったく、全然、ありませんでしたね!

AIRI SUZUKI 1st LIVE
〜Do me a favor @ NIPPON BUDOKAN〜

2017年6月に ℃-ute が解散して、この2018年7月9日、満を持して、鈴木愛理、初の単独武道館公演『AIRI SUZUKI 1st LIVE 〜Do me a favor @ NIPPON BUDOKAN』が開催されました。

この武道館に至るまで、街頭に大きな看板は掲示されるわ、テレビCMは打たれるわと、事務所も “鈴木愛理の売り出し” に力を入れているようでしたから、きっとこの鈴木愛理ソロの初単独武道館公演は、アップフロントのステージ技術の粋を凝らしたものになるだろうと思っていました。…それどころか、鈴木愛理というタレントが、ステージ上で、どれほど多彩な顔を持っているかを、16年目にして知らしめられることになりました。
ずっと℃-ute を、Buono! を、ベリキューを見てきたのに、鈴木愛理というアーティストが、いかに優れたエンターテイナーであるか。それを、まだ私たちは知らなかったようです。それは「アップフロントのステージ技術の粋を凝ら」すまでもなく。

この武道館公演までに、Zepp や COTTON CLUB で単独ライブを実施してきたから、きっとこの初単独武道館公演は、鈴木愛理のソロとしての、それなりに熟してきた思い切ったステージングが楽しめるだろうと、そうも思っていました。…しかし、鈴木愛理がソロとしてステージに臨むからこそ、同時に、一人じゃないことが際立ったことも印象的でしたね。
バックを務めた8人のダンサーも、生バンドのみなさんも、客席に駆けつけていたという℃-ute メンバーも(萩原舞さん体調不良だとか)、これまでの自分を応援してくれたファンのみなさん(team ℃-ute)も、鈴木愛理をたくさんの人がいろんな形で支えているってことが際立ったステージでもありました。

率直に言います。いや、鈴木愛理、凄かったわ!

歌声が心地好すぎる22通りの鈴木愛理 セトリに沿って

かの「あなたは本当の鈴木愛理を知っていますか」の文字列とナレーションから、オープニングは、正面に展開したスクリーンに映し出されるスタイリッシュなモノトーン(ではないけれど、どことなくモノトーン)風な印象のエフェクト映像から。そのエフェクトをバックに、ダンサーたちがシルエットで登場します。この中に愛理が混じってるのかと思って、一瞬、探しましたよね。結果、オープニングで、武道館のステージをぐるりと一望することになって、これは計算ずくの演出だったのかも。

そんな武道館のセットリストは、こんなところで。

01. DISTANCE
02. 未完成ガール
03. Be Your Love
【盛り上げ練習動画】
04. Candy Box
05. Moment
06. いいんじゃない
07. 大きな愛でもてなして(℃-ute)
【ダンサーによるパフォーマンス】
08. perfect timing
09. たぶんね、
10. Good Night
【デート風焼肉店へ向かう動画】
11. 私の右側
12. 君の好きなひと
【あいりちゃんねる】
13. No Live,No Life
14. 初恋サイダー(Buono!)
15. Independent Girl~独立女子であるために(Buono!)
16. STORY
17. 光の方へ
18. start again
↓↓↓↓↓アンコール↓↓↓↓↓
19. #DMAF
20. 通学ベクトル(℃-ute)
21. Yes! all my family(℃-ute)
22. 私のそばで

こんな鈴木愛理は知りませんでした セトリに沿ってPartⅠ

そんなスタイリッシュな押し出しのまま、8人のダンサーを左右に従え、スタートは『DISTANCE』から。この曲は流れ的に “I do anything anyway” の部分がとんでもなく高音になるかなと思って構えてたら、愛理さんは、このパートの前後で音の高低をかなり激し目に操作していましたね。聴き心地の良さを、意図してるんだなって。

そのまま『DISTANCE』のアウトロに乗せて(繰り返し)スタイリッシュなダンスを見せてくれたかと思えば、一瞬の暗転で衣装チェンジ。現場では「あれ?帽子かぶってたっけ?」ぐらいにしか思わなかったけど、このライブ前半は、1曲ごとに衣装まで変える愛理さん大変化ってところで、衣装が変わっただけじゃなく、スタイリッシュな雰囲気から一転、複雑な旋律ながらも王道ポップス路線の『未完成ガール』へ。ここで「日本武道館、行くよ-!」のコールもあったりして。

個人的には、この『未完成ガール』は、歌詞も、メロディも、一番に好きだったりします。℃-ute が解散して「大好きな歌があれば良い」と、「進行形のままでいたい」と、ソロで自分の道を歩み始めた鈴木愛理さんを象徴しまくってる楽曲でもあります。そして鈴木愛理のソロ曲として一番最初に公開された楽曲でもあって。

武道館のステージは、この『未完成ガール』の披露にあって、ようやくステージに大きな光量が注がれて、バックで生バンドのメンバーが演奏しているのも目に入ってきます。

再度、一瞬の暗転で、これまでの白を基調の衣装から黒のセパレーツ風の衣装へと愛理さん大変化継続で3曲目『Be Your Love』です。白愛理から黒愛理へと変化したように、曲調から歌詞の内容まで、ダンスの雰囲気から前髪をかき上げて不敵に笑う表情まで、急に大人な感じです。
って、始まってまだ3曲しか披露してないのに、もう “いろんな愛理” がたくさんすぎて、「あなたは本当の鈴木愛理を知っていますか」 どころの騒ぎじゃありません。『Be Your Love』の短い調子のフレーズを繰り返すようなパートを、細切れに、しかし巧みに息継ぎをしながら小刻みに重ねていく様子に、すでに、この段階で、私たちは鈴木愛理さんの(そうであるとは悟らせぬ見事な)歌の技を、どれだけ見せてもらったのだろうかと思うほど。

ギターからベース、キーボード、ドラム、コーラスと、生バンドの短いソロとメンバー紹介的なシークエンスを挟んで(愛理さんの衣装チェンジの時間を稼ぎつつ)会場を煽るMC代わりの映像が流れます(コールとクラップの練習)。

続いて、そのコールとクラップの練習の成果が試されるのは『Candy Box』。いきなりステージまで変化して、大きなプレゼントボックスの中から、赤で縁取られたブルー基調のワンピース風で、髪をアップにまとめた愛理さんが登場します。
順番にダンサーさんたちも登場してきて、楽しげで華やいだ、女子会風のウキウキした曲調のまま、嬉しげで弾むようなダンスが繰り広げられます。

1曲ごとに全然違う鈴木愛理 セトリに沿ってPartⅡ

また暗転して、ステージの雰囲気は一変。静かなピアノの独奏から、正面ステージ2階部分でベンチに座って、これまた一転してシックなワンピース風に衣装チェンジして、バラード風ながらテンポの速い『Moment』を。
って、テンポが速いバラードって、そんな変則的な楽曲を、さっきまでの楽しげでコケティッシュな雰囲気から急変させて、しかし切なげに、それでも自分の声を楽しむかのように歌う鈴木愛理というタレント(=才能)に、ここら辺りで、そろそろ感嘆し始めます。
ここまで、まだ5曲だというのに、いったい、どれだけ多彩な顔を見せてくれることかと。

アコースティックなギターの独奏から、続いては『いいんじゃない』を、妖艶なドレスに身を包んで。
この歌い方がまた、単純に大人っぽいってわけじゃなくて、なんというのか気怠げで、いろんなことを経験してきた大人が、手段として敢えて演じる “甘え” みたいなところを、歌い方、声の出し方、表情なんかで見事に表現して見せます。これほど、それぞれの楽曲に合せて “鈴木愛理としての押し出し” までも変化させてくるのは、今更ながら驚きです。

とか思ったら、大きなハートマークが登場して、急にアイドル風のピンクのミニスカートに大きなリボンをつけて、℃-ute 楽曲から『大きな愛でもてなして』を。
そのまま、(初めて)花道を通って武道館中央に設えられたセンターステージへと移動して、フリフリと「♪たーくさーん 恋 でーきちゃーう」と。
そして、センタステージで、つまり武道館の中央ド真ん中で嬉しげに歌う愛理さんに向って、「おーいえー、おーいえー」と、これまた嬉しげなコールが、ようやく客席からも。

ダンサーさんたちが、それぞれにソロで技を見せてゆくパフォーマンスパートを挟んでから、女王様風に豪華なチェアーに鎮座して、ボンテージ風の衣装で再登場してきた愛理さんは『perfect timing』を。またも雰囲気は一変して、急に艶かしい感じです。
って、座りながらでも、周囲のダンサーに合せてリズムを刻む挙動が激しめだったりするんですけど、立ち上がってからも、すげぇ腹筋を使ってるのがわかります。あんだけダンス…ってか腰をぐりんぐりんとストロークも大きめにグラインドさせるのに、かなり腹筋を使っていながら、同時に、かくも朗々とした声量とは、恐れ入るばかり。

そのボンテージ風の衣装に黄色いふわっとした上着を羽織って、またも雰囲気が急転して、明るくポップに『たぶんね、』が続きます。イントロの合間や間奏での愛理さんの笑顔が光ります。「♪たぶんね」とか「♪そんなに」といった、サビのフレーズの部分部分が力強くて、これまた歌唱法といいますか声の出し方が他と全然違うんですね。さっきの愛理さんと、今『たぶんね、』を歌ってる愛理さんが同じ人なのか、真剣に悩んだり悩まなかったり。

再度、しっとりとしたピアノソロに続いて(ついに衣装チェンジなしで)そのままフロントステージ1階部分に降りて『Good Night』。武道館のアリーナを嬉しげに「くらっぷーー!」と煽る鈴木さんです。
カクカクとダンスも交えて、ちょっとだけテヘペロな表情も見せてくれて(気がつかなかったけど、なんかミスしたんでしょうかね)…って、ここまで10曲、全部1人で歌い切って、ダンスしながら、激しく衣装チェンジを繰り返しながら、しかし僅かな息切れもしないのは、どんなスタミナかと。…とか思ったところで、ダンサー8人を率いて楽曲のリズムにのって行進風にセンターステージへと移動して、ダンサーさんたちと同じフリ付で踊ったり…そろそろ感嘆が驚愕に変わりつつあります。

愛らしさを強めに押し出す鈴木愛理… セトリに沿ってPartⅢ

この『Good Night』を終えて、そのままセンターステージで、本人も「やっと喋りましたあ」とおっしゃる通り、ようやく肉声のMCとなります。
ここで “DUDOKAN” のハプニングについて、愛理さん自ら言及するだけじゃなく、このハプニングがネットニュースになって “ついに看板まで滑舌の悪さがうつった” と書かれていたことに触れては、「なんやねん!」とか、愛理さん嬉しそうでしたよね。 「”B” が “D” になってる」ってのをジェスチャーで表現するのが、変わらぬ愛理さんの “謎の挙動” を思い出させてくれて、見てるこっちも嬉しかったっすよね。

暗転してスクリーンには映像が。
きちんと襟元までボタンをとめたシックでトラッドなワンピース風の衣装の愛理さんが、カメラに向って語りかける、カメラを恋人未満の相手と見立てたデート風のVTR。どうやら焼肉屋さんに向うみたいです。
もう、こちらに話しかける愛理さんの感じが、焼肉店の扉が重くて「けっこう重いです!」ってのまで含めて、敬語の有る無しの切り替えなんかも実にナチュラルで、これは℃-ute 時代からずっと鈴木愛理を一番の推しとてきたファンの方におかれては、随分と、この場面でノックアウトされた方が多かったのではないかと。

続いて、その映像のまんまの衣装で登場してきた愛理さん、ステージにて歌いながら映像の続きを。ステージ上でお肉を焼く様子を演じつつ、デート風VTRに続けた演技を継続して、そのシチュエーションのまんまに『私の右側』を。
友達以上恋人未満の状況を、もどかし気に、しかし明るく、恋へ発展しつつある途中のプロセスを楽しんでいるかのような楽曲。演じてるというよりも、そのまんま鈴木愛理って感じもあったりして、ちゃんと焼いてたお肉を落としちゃって(歌いながら)「わあっ!」とかリアクションしてましたしね。

で、また暗転。
と、この曲が変わる度に暗転して(愛理さんだけじゃなくステージも変化したりしつつ)しかし、ステージがぶつ切れって印象がまったくないのが凄いところで、さまざまに変化する愛理さんを次々と見せてくれながら、同時に、確固とした一貫した鈴木愛理もまた(転変する多彩な顔の背後で)揺るぎないことが明らかだったり。

そんな暗転後は、すっきりした顔立ちとスレンダーなスタイルが強調されたトラッドな衣装にポニーテール姿で、フロントステージにて前に進み出て『君の好きなひと』を。歌詞が(おそらくは鈴木愛理さんの直筆で)便箋に手紙を書くような筆致で、スクリーンに映し出されます。
ピアノ独奏をバックに(ドラムもギターも一瞬とまって)「ぜんぶ、ぜんぶ、好きになってしまった」と歌うときの、若干うつむいて、悲しそうな表情を浮かべる愛理さんや、「気付いてよ、ねえ、わたしの好きなひと」と歌って切なげに目をそらせる愛理さんには、改めて惚れ直したファンも多かったのではないでしょうか。

…俺? いや、俺は、ほら、熊井ちゃんと道重さんが(以下数十行省略)

あの頃の鈴木愛理を強めに(”謎の動き” 込み) セトリに沿ってPartⅣ

三度、愛理さんはバックにひっこんで、スクリーンには改めてVTRが。
映像の中身は、”待ってました” と言いたいほどの “謎の挙動” だらけの YouTuber愛理による “あいりちゃんねる“。 YouTuber愛理が、武道館の客席に向かって、嬉しげに、次の曲のためのコール練習、盛り上げ練習、忘れ物チェック練習を促します。録画された映像だってわかってるのに、愛理さん、めっちゃ楽しそうです。

これまで、あんだけ妖艶だったり、大人だったり、スタイリッシュだったりと、アーティストとしても多彩な新しい愛理をいっぱい見せてくれていたのに、この “あいりちゃんねる” の中の愛理さんは、あの℃-ute 時代のメイキングの女王と呼ばれた時期の、突っ込み待ちなのに放置されて、やり始めたネタを自分でも止められなくなってる、あの愛理さんのまんまだったりして、なんとなく嬉しかったりしませんでした?
私は、とっても嬉しかったです。

VTR映像の中の愛理さんに呼び込まれるままに、ド派手なヒョウ柄風(?)のトップスに色柄鮮やかすぎるスカートといった衣装で登場してきたリアル愛理さんが『No Live,No Life』を歌ってくれます。”あいりちゃんねる” で練習したとおりに『No Live,No Life』を盛り上げにかかる武道館の客席なんですけど、「ぶんぶんぶんぶ、ぶんぶんぶ、ぶんぶん」とか、大の大人がって思いますよね。それでも抗えないのが、今思い返しても不思議。

余談ながら『No Live,No Life』のエンディング、「また今日も、うどん食べて帰るわ~♪」って、ちょっとドキっとしませんでした?。
きっと気付いてないところで、℃-ute や Buono! との連続性を意識させるような細かい演出・お遊び・小ネタって、いろんなところに、たくさん盛り込まれてたんでしょうね。… team 鈴木愛理、ってところですよね。

暗転して、ギターの音が響いたかと思ったら、「キスをあげるよ~」って愛理さんが歌い出した瞬間(一瞬静まりかえってから)武道館が「うおおおおおん」って揺れましたよね。ええ、Buono! から、『初恋サイダー』です。
左右に張り出したウイングを歩いて2階スタンド席の間際まで近づいて、かつては3人で歌い別けていた鉄板曲を、朗々と、楽しげに、堂々と、たった1人で歌い切る鈴木愛理に被せてシャボン玉の特殊効果が飛び出して、武道館の「うおおおおおん」が収まらないかと思ったら、そのまま続けて、上着を脱ぎ捨てて、「#DMAF」をあしらったフラッグを肩にのせセンターステージへと歩を進めて、やはり Buono! から『Independent Girl~独立女子であるために』を。
スチームの特殊効果を背負って、℃-ute が解散して、ソロになった愛理が、独立女子を、自分の生き方くらい自分でキメると歌います。…痺れます。鳥肌もんってのは、こういうときに使う言葉だったんですね。素晴らしかった。

分厚い声量の鈴木愛理 セトリに沿ってPartⅤ

正面のステージに戻って、テンポの度合いを加速させて歌うは『STORY』、その序盤の「きっと大丈夫だよって」というパートの高音の響き具合の激しいことに驚きます。ラストの煽りの部分も高音が高めで、この『STORY』の鈴木愛理は、モーニングOGの田中れいなもかくやあらむと思うほど。
いや、高音の田中れいなから重低音の菅谷梨沙子まで、それぞれに匹敵するほど声の範囲が広く、その全音域にあって耳に心地良いとは、今更ながら恐れ入ったボーカルです。

あくまで個人的に、過去歴代のハローの歌姫に、一身で匹敵しまくるところ、先行する00ナンバー全員の能力をすべて併せ持つとされた “初期サイボーグ009” の設定を思い出して熱くなるんですけど、考えてみれば、ミュージックスクール時代から、アップフロントが育て上げてきた最終兵器ですもんね。あ、この段、個人的すぎるので忘れてください。

そして一気にポップな雰囲気に転調して『光の方へ』を。
正面ステージから左右のウィングに展開している8人のダンサーさんのところを順繰りに巡っては、それぞれにハイタッチしたりアイコンタクトしていく愛理さん。ウィングの下手側にいるときと、上手側に移動したときと、それぞれの側でテープ射出の特殊効果が飛び出して、再び8名のダンサーを率いてセンターステージへ移動します。
と、こんな風に、武道館を縦横に使い倒して、右へ左へと、上手から下手まで、歩き回って、駆け回って、そして、ここまで17曲を、最初っから最後まで1人で歌い続けて声量にわずかの衰えも感じさせないとは、愛理さん、どんなボーカルなんだと、ほんまに。

そして本編のラストは、さらに声量を押し出す『start again』にて。
いろんな歌い方、いろんな声の出し方を駆使していながら、なによりも一番に驚かされるのは、一瞬も息切れしない、そのスタミナです。
だって、この『start again』は、イントロで大きく声を張り上げてから急に低音に転調するとか、歌うにあたって難しいってだけじゃなく、愛理さんは歌いながら、途中から登場してきたダンサーさんと同調して激しく上体を揺らしてるし、しつこくて申し訳ないんですけど、今更ながら恐れ入ったボーカルです、鈴木さん。

感動的だけど嬉しげなMCとアンコール セトリに沿ってPartⅥ

そのまま『start again』のアウトロで暗転した武道館には「あいり!あいり!」コールが響きます。

グッズのTシャツのノースリーブバージョンと、これまた物販グッズのマイクロファイバーをスカートに仕立てた衣装で再登場した鈴木愛理が歌ってくれるアンコール1曲目は『#DMAF』。℃-ute が解散してからこの日の武道館までのすべて、そして開演してからこのアンコールまでのすべてを背景にして、やっぱり「愛を込めて、歌を歌おう、ありったけの声で」といったフレーズには、いろいろ響きます。
「ひとりで大丈夫」から「ひとりじゃないと気付いた」と歌詞が流れて、やっぱり「愛を込めて、歌を歌おう、ありったけの声で」と歌われて、ほんとに、いろいろ響きます。

続く MC では、”カッパ” ならぬ裏テーマ “カメレオン”(いろんな私を見せて皆さんを笑顔にする)で13変化をしたんだとか語ってくれます。
自分のファンはネガティブな人が多いという話題も放り込んだりしながら、”15年目の新人” というキャッチフレーズをもらったことから始まって、これまでのアイドルとしての道程を力強く肯定し、お父さんのプロゴルファー鈴木亨(とおる)さんが北海道のライブビューイング会場で見てると暴露してみたり、東京では一瞬だけ雨が降ったと誰かのことを睨んでみたりと細かく話題を盛り込みながら、明日へ向けた抱負をこれ以上ないくらい嬉しげに語って、この武道館でいろんな鈴木愛理を見せてくれたのと同じように、短い時間にいろんなことを詰め込んで、最後に、つんく♂さんが私に最初に作ってくれたソロ曲を歌います、と。

この MC は、「愛を込めて、歌を歌おう、ありったけの声で」と『#DMAF』の歌詞で響きまくったあれこれを、ほんとに適切に言葉にしてくれた MC だったかと思います。

つんく♂さんが私に最初に作ってくれたソロ曲として、℃-uteから『通学ベクトル』を、続けて2009年のアルバム(『④憧れ My STAR』)から、やっぱり鈴木愛理ソロ曲である『Yes! all my family』を歌ってくれます。

ソロになって、スタイリッシュにアーティストとしての売り出しを押すのかと思えば、これまで ℃-ute であったこと、アイドルであったことを大事に抱えていくと宣言してからの『通学ベクトル』と『Yes! all my family』ですからね。ソロアーティスト鈴木愛理としての新しい展開の仕方に、もしかしたら(アイドル時代のファンはもう歓迎されないのではないかと)一抹の不安を予感していた古くからのファンも、ここで、安堵のあまり、いろんな体液を漏らしたのではないでしょうか。だって『Yes! all my family』のエンディングでは、あの謎の動きも激しめに飛び出しましたからね。

…俺? いや、俺は、ほら、つばきファクトリーがね(以下数十行省略)

異例ともいえる4曲ものアンコール曲のラストのラストは、『私のそばで』。
ここまで22曲。息切れどころか、一瞬たりとも声がかすれることすらなく、ずっと心地好い声を、九段下の日本武道館に響かせた鈴木さんでした。

サプライズのゲストも何もなく、たった1人で客席と対峙して2時間を沸かせ切った武道館ライブは、これこそサプライズだった秋ツアーの予告をもって幕を閉じました。

多彩な鈴木愛理の背後で揺るがぬ鈴木愛理

上にセトリに即して述べてきたことと重複しますが、敢えて。

衣装チェンジが頻繁だったライブ前半、まだまだ客席も温まっていないそのライブ序盤で、衣装チェンジやステージセットの変化のために、曲が変わる度にステージが暗転して、しかし、ライブの進行がブツ切れな印象がまったくないのが驚愕です。まったく同様に、さまざまに変化する愛理さんを次々と見せてくれながら、同時に、確固とした一貫した鈴木愛理もまた(転変する多彩な顔の背後で)揺るぎないことも。

武道館に登場してくる鈴木愛理は、ときにスタイリッシュで、ときに妖艶で、ときに愛らしく、とくにコケティッシュで、ときに艶かしく、いろんな顔を見せてくれました。
スタイリッシュな愛理は、スタイリッシュな楽曲を奏でるために。愛らしい愛理は、愛らしい楽曲を奏でるために。すべては楽曲のために、鈴木愛理はさまざまな多彩な鈴木愛理に変化してくれました。同時に、コケティッシュな愛理は、コケティッシュな曲調によって、妖艶な愛理は、妖艶な曲調によって、すべては楽曲によって、いろんな鈴木愛理を私たちは見ることになりました。
この意味で、いろんな鈴木愛理は、間違いなく、歌を愛し、歌を歌うためにステージに上がる、私たちが知っている鈴木愛理でした。

ファンによっては、変わらぬ謎の動きがそれに該当するのかもしれません。ファンによっては、短い MC の中に話題を詰め込みすぎて早口になってるところがそれに該当するのかもしれません。ファンによっては、朗々たる斉唱を気持ちよさそうに歌い上げているところがそれに該当するのかもしれません。どんな曲調であれ、その歌声そのものが、あまりにも心地良すぎることがそれに該当するのかもしれません。

ファンによって着目する鈴木愛理がいかに多彩であれ、それぞれのファンにとっても、多彩な鈴木愛理の背後には、やっぱり揺るがぬ、そのファンにとっての鈴木愛理があるでしょう。武道館のステージでの22曲を通して、22通りの鈴木愛理を見せてくれたその背後に、やっぱり変わらぬ鈴木愛理が堅固に屹立していたように。

ん?「あなたは本当の鈴木愛理を知っていますか」って?
ええ、いろんな鈴木愛理も、その背後で揺るがぬ鈴木愛理も、これまでの鈴木愛理も、そして、この先の未だ見ぬ鈴木愛理も、知っています。

(文=kogonil)

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