見事な脚本に劣らぬ存在感 【超短報】 須藤茉麻出演 おなかポンポンショー第2回興行『死んでもいい』

はじめに

それで結局、コーヒーの2つめの効用は何だったんでしょうね?

そうした余韻を上手に後引かせて幕を閉じるお芝居『死んでもいい』に、我らが須藤茉麻さんが出演していましたが、あれこれ印象深いお芝居だった中で、まずはビックリしたのは、背格好といい、髪型と髪色といい、一瞬、雅ちゃんかと思ったよね、あの女優さん。
思いませんでしたか?

おなかポンポンショー第2回興行『死んでもいい』 が2017年1月15日まで、下北沢の「シアター711」にて上演されていました。こちらに、我らが活動停止中 Berryz工房から、須藤茉麻さんが出演していました。主演です。

おなかポンポンショー第2回興行『死んでもいい』

「おなかポンポンショー」は、謎の鉄道少年役で冒頭からずっと出ている大堀光威さんが「大人計画」から離れて主催している劇団ということで(伝聞)、今般はその第二回公演。
下町(というか謎の大田区DISが劇中にありますが)の、とある喫茶店を舞台に物語は繰り広げられます。

いや下北沢の「シアター711」、投稿者が観劇したのは13日の金曜日だったんですが、無事ジェイソンに襲撃されることもなく、楽しいひと時を過ごせました。その数日前からスタートしていたこの公演、「シアター711」の客席がステージから近いとは聞いていましたが、ちょっと近すぎて居心地悪いレベル。
それほどステージと近かったので「こりゃ逆に目のやり場に困るのではないか」とか思っていましたが、お芝居がスタートすると、まさに展開されるお話の渦中に巻き込まれているかのように、臨場感たっぷりに観劇することができました。

いや、須藤茉麻さんの舞台女優としての活動を追ううちに、何人か、ハロプロとまったく無関係に、そのパフォーマンスに魅せられちゃった俳優さんに出会ってしまったりしている投稿者ですが(この『死んでもいい』 においても、井上尚さんという俳優さんやインコさんというマルチなコメディアンにかなり注目です)、この「小劇場の一体感」みたいなものまで感じてしまっては、いろいろと危うい切所にいることを自覚中です。

レビュアー殺しの見事な脚本

茉麻が演じる主人公は、過去に色々あって、その色々を経て更生し大学も出てお勤めもしたんだけど、さらにそこでも色々あって、自分の日常を一新させようと、心機一転、会社を辞めて、この喫茶店で働き始めたばかり…という設定です。
喫茶店に偶然来客する者あり、常連さんのお知り合いありと、その喫茶店に集う人々が、どこか主人公の過去のあれこれに大きく関わっていた人々だったりして、茉麻が演じる主人公が抱え込んでいた辛い思い出や、大事にしてきた美しい思い出、解決できなかったトラウマや家族関係の問題点などが、新たに照らし出されたり、絡み合っていた気持ちがほぐれていったりします。
そうした、いわばハートウォーミングな下町の人情物語が、茉麻を核として展開します。

慌ただしい登場人物の紹介もスムーズで、ひとりひとりの登場人物(何名かは一人二役)が、しっかり個性的で魅力的に描かれているのは、見事な脚本でした。
セリフの中にも衒学的な「教養」が散りばめられますが、それも、いわば「演劇の臭み」を感じさせるようなものではなく、この辺りの文字運びは、ほんとうに見事な脚本でした。

…と、舞台設定の説明から登場人物の紹介まで、観客を戸惑わせることなく、上手に物語の土台を積んでいく達意の脚本でしたが、それでも、ずいぶん「お話として定形的」だし、「典型的でわかりやす過ぎる」とか思って観ていました。そして、公演スタート前に、およそ1時間40分前後の上演時間だとアナウンスされたのに、ずいぶんと話の展開が急で早いなと思って観ていました。まだまだ上演時間がたっぷり残っているのに、いろんな主人公の過去のあれこれが、ずいぶん落ち着くべきところに落ち着いて行っちゃってるんじゃないかと。
もちろん、そのように「ずいぶんと話の展開が急で早い」けれど、「典型的でわかりやす過ぎる」と思えるほど、観客を置いていくような展開ではなく、目の前の場面はしっかり理解できるわけで、その意味でも、上手で見事な脚本ではありました。

ところが。

物語は、後半、ものすごい勢いで急展開します。ってか、まさしく大どんでん返し!
タイトルの「死んでもいい」はダブルミーニングだったんですね。いろんな悩みが解決して、今、この瞬間が楽しくて、生きてるってすばらしいなと実感できて、その肯定的なスタンスを十全に表現する感嘆詞としてと、そして、もう一つの意味が。
脚本の見事さ、演者の演技に仕込まれた伏線が(そんなものが仕込まれていたということも含めて)真に明らかになるのは、この大どんでんがひっくり返ってからの急展開部分だったりして。
しかし、あまりにネタバレすぎるので、その急展開以降のことには一切触れられないというレビュアー殺しなお芝居です。

いやー、びっくりした。

おなかポンポンショー第2回興行『死んでもいい』、たいへん面白く見応えのあるお芝居でした。この、おなかポンポンショー第2回興行『死んでもいい』においては、茉麻が、とある女優さんの大事な部分を揉みしだくという変態の面目躍如とも言うべき場面すらありますからね。

手段に堕ちぬその存在感 女優:須藤茉麻

さて、そんなお芝居に主演として参加する我らが Berryz工房、須藤茉麻。
ちなみに、パンフレット的に会場で配布されるチラシにも、しっかり「須藤茉麻(Berryz工房)」って書いてありましてね。ちょっと、これだけで何発か良いストレートをくらった感じで、若干、足元が覚束無い投稿者です。

上にも述べたとおり、非常に良いテンポで、複数の登場人物とその主人公との関わりが説明されていきます。個々の演者の魅力がクローズアップされる一方、その人物紹介と背景説明が足早で典型的であってみれば、いかに主人公とはいえ、そうした紹介パートにおいては、いわば「狂言回し」的な立ち位置になってしまって、個々に紹介される登場人物の魅力にフォーカスが次々と移っていく中、あくまで、その都度の紹介人物を舞台に登場させるための「黒子」的な役割となり、意外と印象に残っていなかったりします。主人公なのに。
個々の登場人物は主人公との絡みがあるからこそ、そのお芝居の個々の場面に召喚されているわけで、(お芝居の上では)主人公を介してしか存在できないわけだけど、一方で主人公は、場面場面で、その登場人物が舞台で生命を獲得するための手段に堕してしまっている、と。
あくまで、一般的には。

しかるに、我らが須藤茉麻は、そんなテンポの早い人物紹介、背景説明の場面にあっても、印象の薄い「手段」などに押し込められてなど、いやしません。しっかり他の演者さんへスポットを当てながらも、舞台の中央に、あくまで主人公として、堂々と居座っています
それはパーツの主張が強いルックスや、響きすぎるほど響く発声の力強さなども手伝ってはいますが、それはやはり、あくまで、女優茉麻のお芝居の強さによって。
他の演者さんが何故この場面に登場してきているのかを説明し、その演者さんにスポットがあたるべき場面であっても、そしてステージのピンスポットがその演者さんにのみ当たって他が暗く沈んでいても、舞台の中央に屹立する須藤茉麻からは一瞬たりとも「注意を逸らす」ことは不可能です。
この強い存在感、さすがだなあと感じ入ったところです。

他にも、茉麻のセーラー服姿を拝めたり、いろいろ嬉しいところがあった今般の舞台ですが、上述のとおり、茉麻のどんなところが素晴らしかったか、それを述べていくと、結局、大どんでん返しの大ネタバレに触れざるを得ないので、やっぱりレビュアー殺しなお芝居です。

ただ、結果的に、Berryz工房に忠誠を誓っているうちに、見応えのある一人の舞台女優を見出してしまったということなのかも知れません。
それほど、舞台上の須藤茉麻さんからは、目が離せません。

できれば繰り返し鑑賞したい「なま」の舞台

以下は余談ながら。
現場でお会いできた熱心な茉麻ファンの方は、この舞台も「全公演をコンプリートする」のだとおっしゃっていまして。
ファンがタレントを、いわば「おっかけ」することの積極的な意義については、まさに茉麻の舞台に接して教えられたところですが、それ以上に、小劇場の客席とステージはまさに指呼の間であってみれば、一回一回のステージでの細かい違いや、公演を重ねるごとに明らかな成長などが目覚ましいであろうことは明らかですよね。かつてのアイドルとしてのライブツアーがそうであった以上に。そうであってみれば、出来るだけすべての公演を追跡するんだという熱心なファンは、それが「熱心なファン」であるというだけでなく、茉麻に忠誠を誓っているというだけでなく、まさしく正しい鑑賞の仕方をしているということにもなりますよね。いわば、茉麻の舞台は、見る側にも非常に高い水準で緊張感が維持されることになっています。結果として。

繰り返し、見応えのある一人の舞台女優を見出してしまったからには、パンフレット的に会場で配布されるチラシにもあるように、4月にも公演があるようなので、是非、チケットを入手する所存。
上記の内容では、茉麻の演技の強さと存在感にフォーカスしましたが、だって茉麻、どんどん美しくなっているんですから。

…なんですけど、コーヒーの2つめの効用って、結局、何だったんでしょうね?

(文=kogonil)

須藤茉麻 舞台についての記事一覧

エンタメアライブでは、皆様からの投稿を募集しています。
詳しくはこちらを御覧ください『寄稿について

Sorry, the comment form is closed at this time.